暴力団対策法が施行され、暴力団排除条例が各地で制定されて以降、指定暴力団の関係者と密接交際者にならないよう法人も個人も細心の注意を払っている。本音をいうと「とてもよい得意先」だった人もいたはずだが、違法だとされては諦めるしかない。なぜ彼らは代紋入りの品にこだわり、それを受注する業者が存在し続けるのか、ライターの森鷹久氏がレポートする。
* * *
「赤福」といえば、三重・伊勢神宮の土産品として名高いあんこ餅であり、筆者も中京地区に出向いた際は必ず買い求める逸品だが、製造元業者の会長が今年一月電撃辞任していた。グループ会社が指定暴力団と取引していた事実が発覚したというのだ。
「会長がかねてより懇意だった暴力団幹部に依頼を受け、グループ会社で製造している焼酎容器に、暴力団の代紋をいれたものを納入していたのです。2000年ごろから3466本の代紋入り焼酎を製造、販売し約1500万円の売り上げがあったそうです」(中京地区民放記者)
代紋とは、暴力団の紋章のこと。その模様をみれば、どの組織かがすぐ分かる。なので、その代紋入り焼酎を製造というのであれば、その暴力団と親しいつきあいをしていると判断されてしまう。その組織を示す紋章が入った品なのだから、暴力団の特別な会合などで配布されたり、土産品として珍重されたことも想像に難くない。つまり暴力団の宣伝活動に加担してしまったことになるのだ。
暴力団関係者との交際を厳しく禁じた「暴力団排除条例」の施行後、赤福だけでなく、多くの民間企業が暴力団との交際などを理由に処罰されてきた。そして、親密な間柄が明らかになると、個人であれ法人であれ、社会から糾弾され続ける。
「代紋入り焼酎はダメでしょうね……。私どもも代紋入りの物を作ってますから、バレたら真っ先にダメでしょう。ただ、昔からの付き合いもあって断ることもできないし、何と言っても”商売”ですから…」
苦笑いでこう打ち明けるのは、かつて埼玉県内でハンコ販売店を営んでいたM氏(50代)。ほんの5年ほど前まで、県内、そして都内に本部を置く某指定暴力団二次団体組織の名刺を月に十数万円分「受注」していたのである。
「ヤクザにとっては名刺は”顔”でした。代紋と役職の下に、稼業名が光っている。大物ヤクザさんだと、月に数百枚を配る人もいたから、暴力団は我々にとっては“お得意先”でしたよ」(M氏)
代紋というのは、我々一般人が想像するよりも「価値」がある。家紋や社章以上に、自身がどのような組織に属するか、を対外的に知らしめるだけでなく「代紋を使える人物」ということで、組織内でも認められた人間であることも同時にアピールできる。「一人前」であることを内外に知らしめるのが「代紋」の効力なのだという。