音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、気取った感じを突き抜けて、妖しい魅力を生み出した古今亭文菊についてお届けする。
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最近、古今亭文菊の「妖しい魅力」にハマっている。
文菊の大きな特徴は、独特の「気取った」物腰。膝を深く落とす勿体ぶった歩き方で高座に現われ、「自分でも嫌なのね、この気取った雰囲気。皆さんの、その突き刺さるような視線……」などと自虐的に語るのが寄席での文菊の定番だ。
その「気取った感じ」が以前より遥かに突きぬけていて、落語そのものに「妖しい魅力」を生んでいると気付いたのは、今年2月11日の上野鈴本演芸場の夜席で文菊の『あくび指南』に遭遇した時だ。
この芝居の主任は三遊亭鬼丸。僕は鬼丸のドライな笑いのセンスが好きで、足を運んだのは鬼丸目当て。文菊の出番はその2つ前だった。
文菊の『あくび指南』は柳家喜多八の型。つまり春風亭一之輔とルーツは同じだが、文菊は、豪快に暴走する一之輔とはまったく別の妖しい方向へこの噺を進化させ、爆笑を誘った。時に素っ頓狂な声を張り上げてみせるメリハリの効いた演技の可笑しさは、昔とは別人のようだ。