隣で診察待ちをしている患者が、実は新型コロナウイルスの感染者だとしたら──待合室、トイレ、受付など、いたるところにウイルスが付着し、さらには霧のように空気中を漂う。本来は病気を治すはずの病院が、「うつし」「うつされる」病原菌の巣窟と化している。
病院で感染してしまうのは、新型コロナウイルスばかりではない。まったく別の症状で病院に行ったのに“無関係”な病原体をもらって帰ってきてしまうこともある。
「腰痛で湿布薬をもらいに行っただけなのに、咳やくしゃみをしている患者さんたちと同じ待合室でずっと待たされて。翌日の夜に39℃の発熱。インフルエンザと診断されました。待合室でうつったとしか考えられません」(40代主婦)
こんなことは日常茶飯事だが、なかには命にかかわる病気にかかってしまうケースもある。
例えば、子供や高齢者では死亡するリスクもあるノロウイルス。感染者の下痢の便の中にはノロウイルスが大量に含まれているので、便を流した水が飛び散り、ウイルスが便座に付着している場合もある。『病院でもらう病気で死ぬな!』(角川新書)の著者で、医師の堤寛さんはこう言う。
「病棟で嘔吐と下痢があれば、ノロウイルスを疑います。医療従事者が気づけば消毒を徹底しますが、患者さんの中には、嘔吐しても自分でサッと掃除して済ませてしまう人もいる。すると残ったノロウイルスが便座やドアノブ、手洗い場の蛇口などに付着し、ほかの人が感染してしまう」
入院患者のお見舞いに切り花を持っていく機会も多いが、その花が感染源となるケースもあるというから驚きだ。堤さんが続ける。
「花にアスペルギルスというカビが繁殖し、それが免疫力の弱い患者の気管に入ると重篤な肺炎を引き起こす危険性があります」
このカビは病院内では生花やドライフラワーの表面、花瓶の水、エアコンの吹き出し口などから多く検出されるという。
「転倒して骨折し、入院していた高齢の母が、なぜか入院中に重篤な肺炎になってしまった」(50代パート)というのは、まさにこのケースだったかもしれない。
同じく重篤な肺炎の原因となるレジオネラ菌は、加湿機の水のタンクの中でも繁殖する。2018年には、大分県の老人ホームで、加湿機に繁殖していたレジオネラ菌が原因で集団感染が起こり、死亡者が出る事態が発生している。