日韓歴史問題の停滞は、韓国から信頼性のある証言が出てこないことにも原因がある。ジャーナリストの赤石晋一郎氏は、身をもってその難しさを知ることになった。自身のリポートが韓国メディアから“歪曲”だと報じられた赤石氏が、その真相をリポートする。
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いまだ解決の道筋が見えない徴用工裁判問題。私がこの問題の取材を重ねるなかで、歴史問題の“暗部”を体感することになる事件があった。契機は『週刊ポスト』で、次のような記事を発表したことだった。
「韓国・文在寅政権が隠す肉声入手! 91歳の元徴用工は語る『日本からの金はいらない』」(2019年12月9日発売号)
記事は私が元徴用工4人をインタビューしたものだった。編集部が付けたタイトルは刺激的ではあったが、証言の範疇内だったので了とした。タイトルにもなった「金はいらない」という発言をしたのが、崔漢永氏という元徴用工の方だった。彼の証言を紹介した箇所を引用する。
〈崔漢永氏が日本に渡ったのは15歳の時だったという。
「私は自分の意志で日本に行きました。当時、父親が傷害事件を起こして逮捕され、罰として日本での強制労働を命じられた。しかし父を失うと9人の大家族なので困る。そこで私が代理として『日本に行く』と手を上げました。年齢も18歳と偽りました。日本での働き先は、福岡県飯塚市にある三菱炭鉱でした。炭鉱には私以外にも何百人もの動員された朝鮮人がいました」(崔氏)
徴用工として日本で働いた崔氏。しかし、日本人からの差別を感じることはなかったと振り返る。
「私は坑道を作る仕事を主にしていました。現場では日本人と朝鮮人が一緒に働いていた。休みは月に1日か2日でしたが、日本人も朝鮮人も同じ労働条件で、同じ賃金をもらっていました。朝鮮人だからと差別や暴行を受けるということもなかった。特に私は15歳と若かったこともあり、上司のサキヤマさん(日本人)に大変可愛がられた。『私の娘と結婚しないか?』と言われたこともありました」(同前)
崔氏は日本人に悪感情はないという。私が「徴用工に慰謝料は必要だと思うか?」と問うと、崔氏はこう語った。
「(元徴用工が)裁判を起こしても何も得られるものはないよ。この高齢でお金を手にしてもしょうがないだろう。私はお金もいらないし、補償をして欲しいとも思わない」
そのハッキリとした物言いは、慰謝料ありきで徴用工問題を語る文在寅政権に、静かに異を唱えているようにも思えた。〉
紙幅の制約があるなかで何を伝えるべきかと考えたときに、「徴用工は奴隷労働だった」という韓国サイドの主張に対して、証言をベースに検証することを主眼にしようと考えた。記事は「差別や奴隷労働はなかった」等の証言を紹介し、徴用工には多様な現実が存在したことを提示した。