猛威を振るう新型コロナウイルスの災禍に見舞われて、コメディアンの志村けんさんが3月29日に急逝した。多くの人々に愛されて、テレビ界に巨大な足跡を刻んだ彼の功績は、わたしたちの身近なところにも残されている。
そのひとつが、ジャンケンの際にいまや当たり前のように使われている「最初はグー!」のかけ声だ。「日本じゃんけん協会」(2011年設立)のホームページによると、「最初はグー」は次のような経緯で誕生したらしい。
1970~1980年代に一世を風靡した生放送中心の公開バラエティ番組『8時だョ!全員集合』の放送終了後、いつも大勢で飲み会が行われていた。そのとき、会計をする人物を決めるためにジャンケンをしようとしたものの、どうにもタイミングが合わない。そこで、志村さんが「最初はグーで合わせましょう!」と呼びかけたのだという(ただし、東京・神楽坂のお座敷遊びが元ネタだという説もある)。
いきなり「ジャンケンポン!」とやると、なかなかタイミングを合わせにくい。とりわけ多人数でジャンケンをするとなると困難なものである。しかし「最初はグー」のワンフレーズが入るだけで、ジャンケンは格段にやりやすくなる。
というのも、「さい、しょは、ぐー、(休止)」という4拍子のかけ声が助走の役割を果たすことによって、参加者全員で同じリズムを共有し、続けて「じゃん、けん、ぽん、(休止)」とリズミカルに呼吸を合わせることができるようになるからだ。ジャンケンの世界に革命をもたらしたと言ってもいいだろう。
『8時だョ!全員集合』の番組内でも仲本工事とのコント「ジャンケン決闘」で「最初はグー」は披露され、またたく間にこのリズミカルなフレーズは全国に普及していった。先の日本じゃんけん協会は「今の素晴らしきじゃんけん文化は志村けんさんの発明があってこそ」と惜しみない賛辞を捧げている。
そんな志村さんは大の音楽好き、それもブラック・ミュージックに精通していたことでもファンの間では知られている。中学時代よりビートルズに傾倒し、高校進学後の1966年には日本武道館で開催された唯一のビートルズ来日公演にも足を運んだ。すれ違うように前日の同公演では、のちの人生を決定づけることになるザ・ドリフターズが前座として出演していた。