ついに東京五輪の「1年程度の延期」が決まった。しかし、アスリートたちは今年7月の開幕を前提に、代表の座を、そして世界の頂点を目指して戦ってきた。柔道男子66kg級では、丸山城志郎(26)と阿部一二三(ひふみ・22)という“2人の世界王者”が、代表1枠を巡って4月5日に直接対決する予定だったが、大会そのものの延期が決まり、ここにきて先行きは混沌としている。彼らはどんな心境で決戦に臨もうとしているのか──。柳川悠二氏(ノンフィクションライター)がレポートする。
◆出稽古ができない
柔道の名門・天理大の道場は緊迫に包まれていた。大勢の大学生が稽古に取り組む中で、隅の一角をロープで仕切り、その中で丸山城志郎(ミキハウス)が同体格の選手を相手に、乱取り(実戦練習)に励んでいた。丸山にとって天理大は母校であり、社会人となった現在も練習の拠点だ。
そして、その様子を見つめる顔ぶれが豪華だった。視察に訪れていた柔道男子の井上康生監督(シドニー五輪100kg級金メダリスト)に加え、同大の大物OBである篠原信一氏(同100kg超級銀メダリスト)、そして同大の穴井隆将監督(ロンドン五輪100kg級代表)──集った面々からして、およそ2週間後に迫っていた対決が世紀の一戦であることがわかる。
昨年の東京世界選手権王者である丸山は4月5日、全日本選抜柔道体重別選手権大会(福岡国際センター)の男子66kg級に臨む予定だった。同階級は、東京五輪で競われる男女14階級のうち、唯一、代表が内定していない階級だ。丸山は残された1枠を、2017年と2018年の世界王者で、4歳下の阿部一二三(4月からパーク24所属)と争い、選抜体重別の勝者が代表に内定する予定だった。
ところが、もつれにもつれた男子66kg級の代表レース決着はひとまず流れた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、無観客で開催される予定だった選抜体重別が、延期となり、開催時期は未定。
1年の延期が決まった東京五輪に向け、66kg級の代表決定方法やその他の階級を再選考とするかなど、代表レースの行方はいまだ混沌としている。ただ、「4・5」決戦に向け、丸山と阿部は制約の多いなかでギリギリの調整を続けていた。そのふたりの姿を見ると、この階級の代表を勝ち取ったほう男が、延期になった東京五輪本番で主役となることを確信できる。