4500組を超える漫才師が頂点の座を目指してネタを披露する、お笑い界最大の祭典「M-1グランプリ」。今年で第16回目を迎えるM-1で、2010年に「史上最大の革命」と呼ばれる漫才を披露したコンビが、スリムクラブ(真栄田賢・44歳と内間政成・43歳)だ。制限時間内に多くのボケを詰め込むことを定石とする同大会で、圧倒的に言葉数を減らす「スローテンポ漫才」を生み出した。彼らはいかにしてコンビを組み、やがて“革命的漫才”に辿り着いたのか──ノンフィクションライターの中村計氏がレポートする(全5回連載/第1回)。
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自信メーターの目盛りは「0」だった。
「死刑台のエレベータに乗せられてるような気分でしたね」
2010年12月26日、M-1グランプリ決勝。沖縄出身の漫才コンビ・スリムクラブは、結成5年目にして、国内最大の漫才コンテストの大舞台に立つことになった。
スリムクラブの出番は3組目だった。2組目のジャルジャルのネタが終わると、スリムクラブは番組スタッフから舞台裏にスタンバイするように促される。
いよいよ、である。ところが、コンビを引っ張る方と言っていいだろう、ボケ担当で年上の真栄田の精神状態は最悪だった。身長183センチでいかにも屈強そうな真栄田の声は独特で、喉を潰したミュージシャンのように嗄れている。
「めっちゃ緊張してて、100パー、スベるってわかった。スポーツ選手じゃないですけど、自分の調子の良し悪しって、わかるんですよ。ああ、これはやばいな、って。でも、もう自分の力ではどうすることもできなかった。スベりに行くとわかっていて、舞台に立つわけですから。死にに行くのも同然ですよ」
2人は、12月12日の準決勝で決勝進出を決めた。ところが、それからというもの劇場ではさっぱりウケなくなってしまった。渋谷にあった若手芸人のための舞台、シアターDで開催されたライブイベントでは、お客さんの投票で16組中15位という屈辱を味わう。真栄田の回想だ。
「こう言っちゃなんですけど、シアターDは下級戦士たちの集まる舞台ですよ。そこで、新人のめちゃめちゃ緊張している女芸人とかにも負けて。M-1でやる予定のネタだったので、これはやばい、ってなって。ちょっとナーバスになりましたね」