自宅で過ごすことが増え、ストレスを感じやすくなっているこの頃。「声」について人はより敏感になっていると言えるのではないだろうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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新しいNHK朝ドラ『エール』の幕が開きました。まず話題をかっさらったのがオープニング。原始時代からスタートし火山が爆発、西部劇にテニスコートと場面は瞬時に切り替わって最後はみんなで踊るフラッシュモブのシーンへ。「人は音楽を愛した」「ずっと音楽は人のそばにある」と音楽礼賛のフレーズが挿入され、実にユニークな冒頭4分間。これまでの朝ドラでは見たことのない、ポップで斬新な始まり方でした。
そう、今回は「六甲おろし」などの作曲で知られる古関裕而さん夫妻をモデルにしているドラマ。音楽の価値を端的に楽しく、そして鋭く伝えるオープニングの構成に、古関さんへのリスペクトが溢れていて脱帽です。という「音」に関する朝ドラだから、声や口調にも関心が集まります。今話題なのがナレーション。声優・津田健次郎さんが毎朝落ち着いた声で語りかけてくる。その声が「イケボ(イケているボイス)」と大評判に。
考えてみれば朝ドラのみならず、以前にも増して「声優」の存在感が増し、子どもの「なりたい職業ランキング」の上位に「声優」がランクインしたり。これほど声優が注目と関心を集めている時代は、無かったかもしれません。ビジュアル的要素だけでなく、声の質や響きがものを伝えるための非常に有効かつ大切な道具であり力を持っている、という証しでしょう。
さて4月の改変期、人が入れ替わるタイミングに「声」「口調」という視点でNHKの画面を眺めてみると……個人的にはとても残念な変化がありました。『首都圏ネットワーク』等NHKの気象情報で長い間、活躍されてきた気象予報士・関口奈美さん。ご結婚され海外へ行くことが決まったそうでこの春、画面からその姿と声が消えたのでした。
関口さんの声・口調はまさしく「ヤワボ」。柔らかくて優しいボイスでした。抑え目だけれど朗らかさもあり、軽やかさもあって。毎日のことだから空気のように自然だけれど、ふと耳を澄ませばふんわりと包んでくれる。あの声にどれほど癒やされたことか。やたらトーンを上げたり声を張ったり、「私が、私が」の自己主張を感じるアナウンサーや気象予報士も多いこのご時世。けれど、関口さんの声にはそうした押し付けがましさを感じませんでした。だからこそ、こっちからふと「耳を傾けて」みたくなるのだと、気付かされました。