【著者に訊け】李琴峰氏/『ポラリスが降り注ぐ夜』/筑摩書房/1600円+税
最愛の女性が男性と結婚してしまい、〈慰めてくれる人を募集します。割り切り希望〉と掲示板に書き込んだ、23歳の女性会社員、〈ゆー〉。そんな依存心の高い彼女に苛立ち、〈いい加減、自分が世界の中心じゃないって気付けば〉と怒る〈望月香凜〉や、台湾で学生が国会を占拠した「ひまわり学生運動」の渦中で忘れ得ない経験をした台湾人観光客〈顏怡君(イェンイージュン)〉など、李琴峰著『ポラリスが降り注ぐ夜』は、新宿2丁目のレズビアンバー〈ポラリス〉を舞台に、7人の人生が交錯する連作小説集だ。
このアジア最大級のゲイタウンには、レズビアンバーが点在する〈Lの小道〉と呼ばれる一角もまたある。恋愛感情自体がない〈Aセクシュアル〉やLGBTという分類は、差別や偏見と人知れず闘ってきた先人の痛みの産物といえよう。だがそうした「名付け」がかえって人を傷つけ、孤独に追い込む場合もあると、台湾出身の日本語作家は言う。
15歳から日本語を学び、来日後は日本で就職。その後、初めて日本語で書いた小説がデビュー作となった。そして平成最後の師走、退社記念と称して2丁目に繰り出し、ポラリスで店主〈夏子さん〉と独立を祝った翌朝には構想を練り始めていたと、あとがきにある。
「あくまで私はこのあとがきも作品として書いていて、ポラリスが実在するともしないとも言っていません(笑い)。ただ従来のゲイの街一色な2丁目の描かれ方に違和感があったので、自分の知らない時代のことは様々な人に取材しました。
2丁目にレズビアン系の店が増えたのは1986年の男女雇用機会均等法施行以降らしく、昔は内藤新宿の花街があったり赤線があった。文字通り女性が体を張ってきた町の歴史を、小説の形で昇華させたいと思いました」