”Stay Home”の日々、新たな作品との出会いを切望している人も多いのではないか。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がレコメンドする。
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先の見えない不安、次に何が起こるのか、という心配。コロナが社会を揺さぶるこんな時だからこそ、緊張を緩めてほっとする時間が欲しい。クスリと笑うと癒やされる。ラブコメがじん、と心に沁みる。始まったばかりのオススメドラマがあります。『いいね!光源氏くん』(NHK土曜日午後11時30分)。それは現代の生活に突如現れた、永遠の美男子・光源氏の物語。何とも奇想天外な設定です。一見するとヤワなラブコメという印象かもしれませんが、細かく丁寧に作られています。
とにかく、主役を演じる千葉雄大さんの弾けっぷりがいい。平安貴族が頭にかぶっている「烏帽子(えぼし)」がこれほど似合う現代人って、他になかなかいないのではないでしょうか?
「かぶると絵になる」絶妙さは、千葉さんのほっぺがふっくらとしていてその柔らかな曲線と烏帽子の微妙なカーブとがフィットしているからかもしれません。これが荒々しい筋肉質のワイルド派男優だったら? ちょっと難しいかも。かといって、ただ単にフェミニン系のビジュアル、女の子っぽい風貌の男優なら誰でもいいというわけではない。直衣(のうし)姿がピタリとくるには、胸板の厚さも必要。すっくと伸びた背筋が、ゆで卵のような美しいお顔と落差を生み出すあたりもまた絶妙です。
さらに「光って」いるのが、千葉さんの成りきり力です。
冷静に考えれば「OLの部屋に突如現れた光源氏」という設定そのものがあまりにナンセンス。その奇妙な世界へぐっと視聴者が引きずり込まれて「なるほどね~」「そうか」「こんな物語も楽しいな」と納得させることができるかどうか、がポイントになる。その駆動力となっているのが、千葉さんの役者としての集中力と没入感です。半端でなく「光源氏そのもの」に成りきる力が、荒唐無稽を支えているようです。
もう一つ、光っているのがキャスティング。
光源氏を部屋に住まわせることになった、こじらせOL・藤原沙織。その役を伊藤沙莉さんが演じていて、こちらも絶妙にはまっています。普通の人の生活感をきっちり出す役柄は、実は演技が上手い人でないと成り立たない。伊藤さんのアルトの声も効いている。キーキー高音で裏返ったりすればただのミーハー。子どもっぽいドタバタラブコメになってしまいますが、伊藤さんのアルトの低音はどこか醒めて成熟した感じで、「引き」「余白」「距離」を作り出してくれています。結果として、大人向けのコメディになりそうな可能性を感じます。