のちの仏教の開祖であるブッダ(釈迦)が立ち上げた教団は、古代インド社会では異端の存在だった。しかし、その実態は謎に包まれている。作家で仏教研究家の平野純氏が、古い仏典の記述をもとに、仏教の本質ともかかわる「ブッダの教団」の秘密に迫る。
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ブッダは2500年前のインドに生まれた異端の宗教家でした。当然ながら、かれの宗教は主流であるヒンドゥー教からみて「異質」と感じる要素をたくさんもっていた。
もし、ここで、「異質さ」をヒンドゥー教徒に感じさせた最大のものをさがすならば、「教団」がそれかもしれません。
ブッダの創設した「教団」は当時、インドの言葉で集団をさす「サンガ」の名で呼ばれ、のちに中国で「僧」と訳されて、お坊さんを意味する語になりました。
たとえ少しくらい毛色が変わっていても、バラバラでいるあいだは何とも思われなかった人間も、いったん集団を組めば社会の保守派にとっては脅威をおぼえる存在になる。このことに今も昔も変わりはありません。
ただ、このブッダの「サンガ」、存在の大きさのわりに実態がはっきりしません。たとえば、その人数です。
仏教はブッダが「ゼロ」からたちあげた宗教です。誕生直後のサンガがごく小人数の所帯であったことは明らかですが、では、かれが生涯を終えた80歳の段階でどれほどの人数に達していたのか、じつはわかっていません。
仏典は例によって何千、何万という数字を伝えますが、参考にはなりません。現在のところ、せいぜい数百人だったという推測がなりたつだけですが、ただ、ブッダの晩年にはそれなりの規模の教団に成長していたと思われる根拠がひとつあります。それは、「精舎(しょうじゃ)」の存在です。インドの言葉の「ヴィハーラ」を中国人が訳したものですが、出家者専用の宿泊施設です。これがブッダの生前に各地に出来上がった。