いまだに日韓で解決の兆しが見えない徴用工問題。なぜ韓国でここまで問題にされるようになったのか。ベストセラー『反日種族主義』の著者が、日本のジャーナリスト・赤石晋一郎氏の取材に、意外な真相を明かしていた。
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徴用工問題のルーツとなったのは、ある政治的な意図を持った学者の研究だった、と『反日種族主義』の著者の一人であり、労務問題を専門とする李宇衍氏は言う。日韓対立における最大の障壁のひとつとなっている徴用工問題。その歴史的背景には何があったのか。
「1965年、国交正常化を目指した韓日基本条約が妥結する直前、朝鮮総連はこの動きに強く反対をしていました。韓国と日本が手を結べば、北朝鮮が包囲されてしまうと考えたためです。そこで日本は悪いと主張し、国交正常化を難しくする必要があった。
そうして書かれたのが朝鮮総連の学者である朴慶植氏による『朝鮮人強制連行の記録』(1965年)でした。その本の内容は1939年以降、朝鮮人が強制連行され強制奴隷労働をしたと主張したものです。この言説は刊行から50年が過ぎたいまでも韓国内では『常識』として捉えられており、歴史学会においても通説とされている。韓国研究者、日本の良心的な知識人も同じ主張をしています。
じつは彼の本は歴史資料によって深く検証されたことがないのです。私は資料を検証し、多くの事実が歪曲されていたことを発見しました。
例えば朴慶植氏は、朝鮮人は朝鮮人であるという理由だけで、同じ作業をしている日本人より低い賃金を受け取っていたと主張しています。その根拠となっているのが『北海道D炭鉱民族別の賃金分布』(労働科学研究所)という資料です。
表を見ると50円以上の賃金を受け取っているのが日本人の場合82.3%であり、一方で朝鮮人は50円未満が75.0%を占める。これだけ見ると確かに朝鮮人の賃金が低かったように見える。
しかし、労働科学研究所の資料には別の資料も掲載されていることを私は発見しました。『北海道D炭鉱民族別勤続年数分布』という資料です。これを見ると朝鮮人の勤続年数は2年未満が89.3%である一方で、日本人は2年未満が42.8%、2年以上が57.2%に達します。炭鉱労働は勤続年数が作業効率に直結する仕事です。ですから熟練度が高い労働者ほど賃金が高かったのは必然だったといえる。
また単身で渡航してきた韓国人労務者が多かった一方で、日本人労務者は家族がいるケースが多く、労働時間が長いためそのぶん賃金が高かったということもあった。