一度聴いたら忘れられないインパクトのある彼の武器“ノックアウトボイス”で、たちまち幅広い世代の心を掴んだ、演歌歌手の真田ナオキ(30才)。歌声ににじみ出るその人柄が、演歌界に新しい風を吹き込んでいる──。
ひとたびマイクを握れば、さわやかな塩顔からは想像もつかないハスキーボイスで骨太なこぶしをきかせる真田。“極上のだみ声”とも称されるその声は独自の訓練で編み出された。
「もともとか細い声だったので歌手を目指すには個性に欠け、ひと声でぼくだとわかっていただける声を作ろうと海岸やカラオケで何時間も大声で叫んで喉をつぶしたり、刺激物の唐辛子を食べて、日本酒でうがいをして…のどに悪いといわれることは何でも試してみました。
無茶なやり方ですが“真田ナオキの声”ができるまで血を吐きながら何年もやり続けました。ある時にぼくの歌を聴いてくださった吉幾三さんから『おまえ、おもしろい声してるから俺の弟子になれ』と声をかけていただけたんです」
師匠と慕う吉と運命的な出会いを果たした翌年の2016年に、吉が作詞作曲をした『れい子』でデビュー。大型新人と謳われたが順調な船出とはいかなかった。
「キャンペーンで酒場をまわっていると酔ったお客さんに『こんなのいらねぇよ!』とCDを投げられたこともありました。もうくやしくて、つらくて…だけどたったひとりでも誰かの励みになればと思えば、頑張れた。なぜなら、歌ひとつで勇気や元気を与えられる歌手になりたいという夢がぼくの原点だからです」
本来は目立つのが苦手で芸能界にまるで興味がなかったというが、21才のときの東日本大震災で人生が変わった。
「当時、小学生だった歌手の臼澤みさきさんが被災地で民謡を届ける映像を見て、号泣するほど心が震えました。ぼく自身は埼玉でそれほど直撃されませんでしたが、近所のさいたまスーパーアリーナが避難所になっていたので被災者のかたがたが身近にいらした。
みなさんは、泥をかぶったままお風呂も入れずに苦しいだろうと思うのに明るい表情をしていたんです。その笑顔に触れて何もできない自分が不甲斐なく、何かしたいという気持ちがわいてきて。そのとき被災地で歌う臼澤さんの姿が浮かび、自分も歌の世界へ飛び込んだんです」
デビュー後は2018年にリリースした3枚目のシングル『酔いのブルース』がロングヒットとなり、2020年1月、4枚目の『恵比寿』でオリコンの週間演歌・歌謡シングルランキングで首位に輝いた。
「目標だったので本当にうれしくて泣きました。1位を獲れると期待されながら逃し続けていろんな葛藤があった。ファンのかたと喜びを分かち合いたくて乾杯の気持ちでビールをSNSにアップしたものの、お酒が弱くて3口で撃沈(笑い)。でもいいお酒でした」