とうとう、新型コロナウイルス感染拡大の影響が、テレビニュースの世界にまで広がった。今までテレビ局関係者から感染者が出なかったわけではないが、それは番組制作、とくにニュース報道の現場からは遠い人たちばかりだった。「三つの密を避けましょう」「社会的距離を」「出勤を減らしましょう」という呼びかけをしながら、画面にうつらないところではなかなか対策をとれずにいるテレビ局の事情を、ライターの宮添優氏がレポートする。
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「キャスターの間隔を空けて、ひな壇の芸人同士の間隔を空けて…最初は冗談かと思いました」
新型コロナウイルスの感染拡大の対策があらゆる場所で講じられる中、テレビ局がとった対策に、民放テレビ局の報道番組ディレクター・杉山豊彦さん(仮名・40代)は唖然とした。効果がゼロ、ではないかもしれないが、単なる「やってますよアピール」に過ぎないと吐き捨てる。
「報道番組ではスタッフが数班に分けられています。仮に感染者が出たら、濃厚接触者は自宅待機せざるを得なくなります。今までの仕事のやり方だと、スタッフ全滅して番組が放送できなくなりかねないので、そのような事態を避ける対策として明確に班分けして働く時間や場所がなるべく重ならないようにしました。でも、密接、密閉、密集という環境で仕事をするしかないのが現状。カメラの前の演者は距離をとって撮影に臨んでいますが、打ち合わせ時はみんな肩を寄せ合っているのですから、ポーズとしか思えない」(杉山さん)
実際に、人気ニュース番組「報道ステーション(テレビ朝日)」のキャスターが新型コロナウイルスに感染したことが発覚すると、報道の現場には今まで「言えなかった」(杉山さん)不満や恐怖を口にし出すスタッフも増えた。
出演者たちが「リモート出演」するようになった日本のテレビ番組制作現場についても、物申したいと憤る。
「海外のニュース番組では、キャスターが自宅のPCを使って放送するなど現場に出る人間を極力減らすようにしていますが、日本では”ニュースを作る人間は会社や現場に出て当然”というスタンスが崩れません。一次情報を得るために現場へ行く必要はありますが、本当に必要な人だけに絞っているのかと。もちろん、部署によっては出社制限をするなどそれなりの措置が取られてはいますが、局内にはびっくりするような数の人間がいて、みんな普通に働いている。打ち合わせでは、キャスターたちが製作陣と肩を寄せあいながら侃侃諤諤やっている。にも関わらず、放送では”外に出るな”とか”リモート勤務しましょう”とか言うのです。矛盾しています」(杉山さん)