【著者に訊け】辛酸なめ子氏/『愛すべき音大生の生態』/PHPエディターズ・グループ/1300円+税
旺盛な妄想力と好奇心でヨソさまの事情を覗き、褒め言葉にもどこか毒や含みのある、実はとことん行動的で体験派なコラムニスト、辛酸なめ子氏。
最新刊『愛すべき音大生の生態』は、元美大生でもある著者が音楽大学に潜入。「同じ芸術系なのに、何をやっているのか、全く知らなかった」という音大生の実像に3年がかりで迫った、〈音大生解体新書〉だ。私たちはつい、才能が火花を散らし、欲と策略に塗れた泥沼劇を期待しがちだが、思った以上に純粋で真面目でエキセントリックなのが音大生だったと彼女は言う。
「映画『セッション』みたいな怖い先生がいて、生徒同士もライバル心剥き出しで足を引っ張り合うとか、その手のドロドロした話を当初は期待していました。ライバルが弾くピアノの鍵盤に針が仕込まれていたという出所不明の話を又聞きで聞いたことはありますが、実際の学生たちは学内の演奏会等々で発表の機会に恵まれているのもあって、そこまで激しい事態にはならないのかもしれません」
と、淡々と分析してみせる著者自身、〈音楽の才能があれば……と、これまでの人生、何回思ってきたことでしょう〉と本書に書く。
「某音大の付属幼稚園時代、褒められたのは〈木魚のみ〉だった私にとって、楽器のできる人は常に憧れでした。絵画は〈ヘタウマ〉もあり得るけれど、音楽の場合は一定のスキルが必要ですし、それをクリアした人だけが音大に入れるわけですから。
美大生も予備校で画力を酷評されたり、受験自体はシビアなんです。ところが入学した途端、就職なんて何とかなるさ的な〈モラトリアムの空気〉に包まれる。過酷な自己鍛錬を永続的に要する音大生とは、そこが一番違うかもしれません」