ハイブランドの派手な柄シャツにギラギラの高級腕時計、気合の入ったリーゼント――。代々木ゼミナールや東進ハイスクールなど有名予備校の古文講師として教壇に立ち、28年。“ヤンキー先生”こと吉野敬介(53才)が独特なスタイルを貫くのには理由があった。
「講師は実力や教え方だけが秀でていてもだめ。独自のノウハウを確立して期待以上のパフォーマンスをしなければ1年間生徒を惹きつけるのはむずかしいんです。エンターテイナーとしての強烈な個性が不可欠だと考えて、見た目も含めて、“予備校講師・吉野敬介”というブランドを演出してきました。
東大を出た先生は学力で売れるけれどぼくは國學院。自分の売り物として生き様を教えたい、『それもひとつのおれの授業なんだ!』という思いがある。だから授業では暴走族時代の話もするし、髪も中学時代からのリーゼント。セット時間は30分くらいかな」(吉野・以下同)
中学時代から暴走族に入り、特攻隊長を経験。「バイクとケンカに明け暮れて高校を卒業できるかどうかもわからないのに、大学へ行くなんて発想は頭にもなかった」と語り、どうにか高校を出ると暴走族専門の中古車販売店に就職した。だがその後、失恋をきっかけに大学受験に目覚めることとなる。
「フラれた彼女に大学生の彼氏ができて、見返してやるぞと特攻魂に火がついた(笑い)。でも中高とロクに勉強しなかったから、学力はまぁひどいもので…予備校で『〇〇を知らないとボキャブラリー不足ですよ』と言われても『で、ボキャブラリーって何?』なんてね(苦笑)。自分よりバカなやつは存在しないと思っていた。それでも代ゼミの有坂誠人先生に出会って古文の面白さを教えてもらい、本気で古文を勉強してみたいと先生に相談したら國學院大をすすめられたんですよ。きっかけは不純な動機でも、結果的に受験に挑戦したことで人生が開けました」
その情熱で一途に予備校講師の道へ進んだのかと思えば、恩師の“課外授業”が次なる動機へ結びつく。
「合格して小遣いでウイスキーを買って有坂先生の家へお礼に行くと、自宅は青山一丁目。駅を出て国道246号を歩きながら、こんな場所に人が住んでいるのかと驚いた。で、お祝いにレストランへ連れて行ってもらったらドリアがなんと4000円。ビーフシチューもいいなと思ったら、それまた4000円するじゃない。
こっちはファミレスで1000円のメニューを食うにも勇気がいるのに4000円の食べ物なんてこの世にあるのかよって。どっちにしようか迷っていたら『シチューをおかずにドリアを食べたら?』とすすめられて、メシに8000円なんてありえないと震えたよね。その経験があまりに衝撃で、お金を持っている人に憧れて。自分も予備校講師で売れたら先生みたいになれるかな、という野心が原点なんです」