ビジネスのやり取りは書面を取り交わすのが基本だが、過去からの慣習、スピード感、煩わしさ……時には口約束でビジネスが進んでいくことは少なくない。取引先との間で納品数に誤差が生まれた場合、契約書がないと不利になるだろうか。弁護士の竹下正己氏が回答する。
【見出し】
金属加工の工場を経営。取引先の担当者とは30年来の付き合い。その方が急死、それでも納品すると、新担当者から「数が多い、返品したい」と通達。前担当者は万が一を考え、常に多めに発注していたのかも。問題は口約束だけで契約書を交わしていないこと。やはり返品を受け入れなければいけませんか。
【本文】
口約束でも契約は成立しますが、契約の成否や条件について、双方の意見が対立すると、契約書や受発注書等の文書がある場合に比べ難しくなります。まず前担当者に部品の購入権限があったのかが問題ですが、新担当者も一定の数量の必要性を認めて納品に応じており、購買する権限があったことは認めるようです。しかし、一定数量を超えた発注権限はなかったということでしょう。
その通りだと前担当者は、権限の範囲を超えて発注したことになりますが、発注権限アリと信ずるべき正当な理由があなたにあれば、表見代理の法理で取引先に対し、発注全量の契約成立を主張できます。従来、同様の取引を繰り返したのなら、全量発注の権限があったと信じても過失はなく、正当な理由が認められると思います。