やむにやまれない事情で地元に帰り、辛い思いをしている人はまだいる。
「仕事と住まいが一気になくなったんです。職場に復帰できる見込みもなく、就職活動もできないので、実家に帰っていたんです」
新潟県の山間部出身で、2月まで神奈川県内にある運送関連会社に勤務していた永野祐美さん(仮名・20代)は、新型コロナウイルスの影響という理由で「派遣切り」にあった。それに伴い、派遣会社の寮も出ざるを得なくなった。
「追い出されたわけではないのですが、仕事もなく、復帰のめども立たない。だとすると寮費を支払って住み続けるのもアレかなって思ったんです。」(永野さん)
契約は3月いっぱいまで残っていたので残り日数を有給扱いにしてもらい、3月の頭には寮を引き払い実家に帰った。実は今秋から、海外の大学に留学予定だった永野さん。コロナ騒動とは縁遠い地元でアルバイトをしつつ、出発までの日々を過ごそうと思っていたが……。
「最初は地元の人も、ユミちゃん帰ってきたんだね、と優しかったんです。ところが4月になって何もかも変わりました。東京から感染を恐れた人々が地方に避難している、といったニュースが流れ始めてからです。私をアルバイトとして受け入れてくれるはずだった父の知り合いの事業主にも、手のひらを返したように”なかったことに”と告げられて…」(永野さん)
両親は「気にするな」と永野さんを励ましてくれたが、あまりのショックで実家にいづらくなると、永野さんは一人東京にやってきた。
「このご時世だから、ホテルや民泊がものすごく安いんです。二週間泊まっても三万円、なんていう宿泊施設もあるので、しばらくは転々とするつもり。一人は寂しいですし、ホテルにこもってやることといえば勉強しかない。でも、実家で後ろ指を刺されながら、両親にまで迷惑をかけるのはやりきれない」(永野さん)
緊急事態宣言が出されたことで、こうした境遇の人々への風当たりがより強くなりはしないか。それとも「他人事ではない」と感じて、辛い境遇の人々を受け入れられるような空気が醸成されるのか。日本人の民度が、ますます試されつつある。