日産自動車元会長、カルロス・ゴーン氏の肉声を10時間以上にわたって保釈中に聞き出していたのが元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏である。その記録が『「深層」カルロス・ゴーン氏との対話』(小学館刊)としてまとめられた。望月衣塑子氏(東京新聞社会部記者)は2人の対話をどう読み取ったか。
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私はかつて司法記者クラブに3年ほど所属し、東京地検特捜部の手がける事件もいくつか取材しました。その経験からゴーン事件を見ると、ゴーン氏が将来受け取ることになっていた報酬を記載していなかったことについて、「有価証券報告書の虚偽記載容疑」で立件することは、そもそも難しかったのではないかと感じています。
また、容疑内容に比べて、勾留期間が長いと思います。裁判所が勾留を延長するか、釈放を認めるかどうかの判断をする際に「この後、別容疑が控えているだろう」と先入観を持ってはいけません。
結局、ゴーン氏は特別背任容疑でも起訴されました。特別背任は立証のハードルが高く、さらに今回は関係先が海外にまたがるため、公判維持は難しいのではないかと感じていました。無理を承知で踏み切ったのかなという疑問も頭をかすめましたが、報道ではそういうトーンは少なく、旧来型の「犯人視報道」も目立ったのは驚きました。