2月末からの「無観客」で競馬はどう変わったのか。奇跡的に残された数少ないエンタテインメントを楽しみながら、“休業補償”もそれなりにいただきたいものだ。競馬ライターの東田和美氏が分析した。
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1週目、72レース中35レースで1番人気馬が勝ったことで、やはり馬も騎手も「観客」の存在が影響するのだと実感した。そして2週目以後も、1週目ほどではないにしろ、やはり1番人気馬にとっては「追い風」だった。
無観客で行われた552レース中、1番人気は195勝で勝率は.353。2019年トータルで.320程度なので、それほど大きな差はないように思われるが、昨年同時期(2、3回中山、1、2回阪神、2回中京、1回小倉の後半4日間、1回福島の前半4日間)の計552レースと比較すると、その差は無視できない。1番人気の勝率は.291と今年より6分も悪い。同様に連対率は昨年.487で今年.548、3着内率でも昨年.623で今年.690だ。
春のクラシックに向けたトライアルレースが毎週のように行われ、待望のGⅠシーズンがスタートするこの時期は、毎年一筋縄ではいかなかった記憶がないだろうか。実力馬が分散しがちな冬場の重賞に比べて、前年の秋にはまだ頭角を現していなかった新星と、休み明けの実績馬が顔を合わせるため、力関係も掴みにくかったはずだ。
最終的に単勝1倍台となった馬の安定感が光る。1倍台に支持されたのはのべ127頭で、多少今年の方が多い程度だが、勝率は.527、連対率は実に.748。昨年に比べて勝率で6分、連対率で1割以上も圧倒的人気に応えている。
大勢の観客が見守るパドックは、馬にとってはストレスの多い場所だ。無遠慮なファンの視線やカメラのレンズに晒され、馬場入場時には歓声が沸き、スタンド前スタートともなれば、やはり人が集まって多くのシャッター音を浴びせられる。
馬を引く厩務員や助手にとっても、パドックは晴れ舞台であると同時に、多くの人前に出るという非日常的な場だ。日ごろの調教の成果が問われる“試験場”でもあるわけで、出て行くときの緊張感はハンパなものではないだろう。単勝1倍台ともなると、ほとんどの観衆の目が自分の馬に集まっているのを感じ、そのプレッシャーが馬にも伝わるに違いない。それを乗り越えるのも一つの試練。
だが、とりあえず今はパドック中継のテレビカメラと、厩舎スタッフや関係者、競馬記者など、日常でも周囲にいるような人間が見つめているだけだ。もちろん緊張感はあるが、それはレースに対するもの。そういう集中力もまた馬に伝わっていく。
しかも今週から関東の舞台はトリッキーな中山から「馬本来の力くらべになる」と言われる広い東京。1番人気馬にとってはますます「追い風」なのかもしれない。
ただし「1番人気が強い」というのは当たり前のことで、それほど馬券検討に影響はない。無観客競馬552レースで注目したいのは、むしろ2番人気馬の成績。今年は99勝だが、昨年同期間は125勝。勝率でおよそ5分近く、連対率で6分、3着内率でも4分ほど昨年を下回っている。3番人気も昨年を下回っているが、2番人気ほど落ち込んではいない。1番人気がプラスの分、2番人気が割を食っている印象だ。
「対抗」馬に推されはしたものの、メンタル面でも懸念材料が少なく、人馬とも落ち着きを見せている「本命」馬が本来の力を出せば、逆転は難しいというところだろうか。勝ちにいっている分、伏兵馬に足を掬われることが多いのかもしれない。