ライフ

【大塚英志氏書評】南方熊楠の日本文学への言及を探る

『南方熊楠と日本文学』伊藤慎吾・著

【書評】『南方熊楠と日本文学』/伊藤慎吾・著/勉誠出版/7000円+税
【評者】大塚英志(まんが原作者)

 柳田國男にせよ折口信夫にせよ、この国の黎明期の民俗学者たちの活動領域は文学と重複する。柳田國男の学問は田山花袋らとの交流の中で強烈な近代的自我を持った青年がその対象を社会に向けることで立ち上がったもう一つの自然主義である。

 折口の「民俗学」と多くの人々が信じている論考は「国文学」として構築され、同時に彼は貴種流離譚を論じつつ自らにそれをなぞらえるファミリーロマンス的短歌を綴った。彼らの学問はかくも近代文学と不可分であった。だからその関心は自分自身が帰属する文学の起源に否応なくロマン主義的に向けられていった。

 しかしもう一人、南方と「文学」の問題は不問であった。粘菌などの自然科学的な知や博覧強記がパブリックイメージとして流布し、文学と結びつけられて論じられることは少なかった。本書で著者が問題とするのは南方の「日本文学」への言及の仕方だが、そこには「歴史的な側面がほとんど顧みられない」、「反歴史的叙述」と言っていいほどに「通時的視点」をとらない、と指摘する。つまり南方は文学の「起源」に思いを馳せないのである。

 従って国文学の資料を読む時でも、折口なら日本文学の系譜に縷縷位置付けていくのに対し、南方は「要素単位に分解」して通時性を奪い「比較」の資料とする。それは、柳田の民俗事象の変遷を追う手法に一見近い。古典的な地理学的方法を思い浮かべもする。

関連キーワード

関連記事

トピックス

広末涼子容疑者(写真は2023年12月)と事故現場
《広末涼子が逮捕》「グシャグシャの黒いジープが…」トラック追突事故の目撃者が証言した「緊迫の事故現場」、事故直後の不審な動き“立ったり座ったりはみ出しそうになったり”
NEWSポストセブン
北極域研究船の命名・進水式に出席した愛子さま(時事通信フォト)
「本番前のリハーサルで斧を手にして“重いですね”」愛子さまご公務の入念な下準備と器用な手さばき
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者(2023年12月撮影)
【広末涼子容疑者が追突事故】「フワーッと交差点に入る」関係者が語った“危なっかしい運転”《15年前にも「追突」の事故歴》
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
「全車線に破片が…」広末涼子逮捕の裏で起きていた新東名の異様な光景「3kmが40分の大渋滞」【パニック状態で傷害の現行犯】
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
広末涼子(時事通信フォト)
【広末涼子容疑者が逮捕、活動自粛発表】「とってもとっても大スキよ…」台湾フェスで歌声披露して喝采浴びたばかりなのに… 看護師女性に蹴り、傷害容疑
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン