「ウイルスは“城を包囲する略奪者”です。私たちが城に閉じこもれば、しばらくの間は攻撃を食い止められますが、それでもやつらは侵入口を見つけて押し入ってきます」
そう語るのは、米カリフォルニア大学アーバイン校准教授で公衆衛生学を専門とするアンドリュー・ノイマーさん。新型コロナという「略奪者」を倒すには、時間をかけて「集団免疫」を獲得するしかないという。
では、「集団免疫」とは何か。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんが解説する。
「ウイルスに感染すると、体内の免疫システムが働いて『抗体』ができます。するとその後、再び同じウイルスには感染しにくくなる。こうした抗体を持つ人が人口の一定程度を占めるようになると、ウイルスが人から人へ移動できなくなり、やがて流行が終息します。これを『集団免疫』と呼びます」
◆人口の50~70%が免疫をつけるしかない
さらにノイマーさんはこう続ける。
「集団免疫率という考え方によれば、人口の50~70%が免疫を得れば感染拡大を食い止めることができます。
新型コロナの1人の感染者が生み出す二次感染者数は2~3.3人とされています。感染拡大を食い止めるには、1人の感染者が生み出す二次感染者を1人以下にしなければならない。そこで、人口の50~70%が免疫を獲得すれば、二次感染者もそれだけ減るというわけです」
集団免疫を獲得するには「1~3年かかる」とノイマーさんは指摘する。
「その間は社会的な距離を置き、公共の場でマスクを着用し、衛生管理を徹底して医療崩壊を起こさないよう努める必要があります。たとえ一時的に新規感染者が減ったとしても、集団免疫を獲得するまで流行は何度でもぶり返すと考えられるので、一喜一憂すべきではありません」(前出・ノイマーさん)
そのうえで、外出自粛の解除を決めるためには「2つの検査が必要」と語る。
「自粛解除の時期を決めるには患者のデータ収集が必要不可欠です。日本は新型コロナ感染の有無を調べるPCR検査の数が決定的に不足しており、本当の感染率を過小評価している可能性が高い。
またウイルスに感染して抗体ができているかどうかを調べる『抗体検査』もとても重要です。ウイルスはロックダウンを続けていても消滅しません。外出自粛の期間を決めるには、2つの検査を徹底して集団免疫の達成度を調べる必要があります」(前出・ノイマーさん)
自粛生活を続け、医療崩壊が起きないよう配慮しながら緩やかに軽度の感染者を増やして集団免疫の獲得を目指し、最終的には検査によってそれを判断して自粛を解除する──それがノイマーさんの主張だ。
ノーベル賞受賞者で、京都大学教授の山中伸弥さんも同様の見解だ。山中さんがホームページで発信した「5つの提言」では、PCR検査体制の強化を求めている。また、新型コロナとの闘いについても、《国民に対して長期戦への対応協力を要請するべきです。休業等に対する協力で迅速な対応が必須です》と呼びかけている。