自宅に半年以上、閉じこもっている「引きこもり」は全国で15~39歳が推計54万1千人、40~64歳が推計61万3千人、あわせて100万人を超えるとみられている(内閣府調べ)。まったく外出しないなら、新型コロナウイルスに感染する心配が無い、とばかりも言っていられない。ライターの森鷹久氏が、変わらざるを得なくなった引きこもりと、元引きこもりが外へ出た体験についてレポートする。
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今年一月下旬、中国の遠い都市でアウトブレイク(大流行)が確認された「新型コロナウイルス」。もう何年も前のことのようにも思えるが、当時、まさか火の粉が日本に降りかかり、現在のように日常生活が送れなくなる程の事態になろうとは、ほとんどの人が思っていなかった。誰も予想出来なかった非常事態は、全人類に公平に不幸を与えているが、中には「気づき」を得ている人もいるようだ。
「10万円弱の年金、あとは近くの雑貨店でアルバイトをして、月に15万円くらいが1ヶ月の収入でした。息子に使うのは、そこから大体5万円程度でしょうか。携帯代やネット代も私が支払っておりましたので」
千葉県在住の中田晴美さん(仮名・70代)は、間も無くアラフォーの息子と二人暮らし。先立った夫が残してくれた自宅があり、幸いにして住むところには困らないため、少ない収入で何とかやりくりし生活してきたと話す。息子は30代前半の時に勤めていた会社でパワハラやいじめを受け、精神を病んで退職。それ以降、10年近く自室に引きこもる生活を送っている。
「将来に対する不安は、それはもう凄まじいものがありました。私が死ぬ時、あの子も一緒に殺そうかとか……。コロナウイルスのせいで、3月から雑貨店のアルバイトに入れなくなることがわかると、本当に死を考えました。休業手当とか補償とかテレビや新聞で色々いってますけど、正直よくわからないし、もらうために動く気力もない。息子にも“これ以上無理かもしれない”と手紙を書き、覚悟を決めようとしていました」(中田さん)
その数日後、中田さんが思いもよらなかったことが起きる。朝起きると、中田さんの枕元に、息子からの書き置きが残されていたのだ。会話が無くなって数年。そこには「迷惑をかけてごめん、心を入れ替える」とだけ記されていた。
「急に部屋の掃除をし出して、伸びきった髪も坊主頭にして、パソコンを使って“休業手当”に関することも調べてくれました。この非常事態でやっと、自分が置かれている現実に気がついてくれたのかもしれません。私のためなのか、自分のためなのかなんてどうでもいいんです。やっと息子がやる気を出してくれたから」(中田さん)