日本の大学入試制度は今、困難に直面している。今春の入試は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、国公立大の一部で後期日程試験が中止された。昨年末には2021年から予定されていた大学入学共通テスト(新センター試験)への「記述式問題」と「民間の英語試験」の導入が、野党や世論などの反対もあり見送られ、白紙に戻された。しかし、さまざまな仕事がAIで置き換えられていく未来の社会を生きる若者たちに、思考力や判断力、表現力、そして、英語のコミュニケーション能力を入試で問うべきとする改革の理念に反対する人はほとんどいない。共通テストへの導入による入試の全体改革が頓挫した今、各大学は個別に入試改革を遂行することが求められている。
東京大と慶應大の両大学で教授を務める鈴木寛氏は、文科相補佐官だった時代(〜2018年10月)に大学入試改革を推進してきた。共通テスト改革が頓挫した後、初めて実施された2020年の大学入試。これまでとどう変わり、変わらなかったのか、鈴木氏に振り返ってもらった。
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──今年の入試は新型コロナの影響を受け、北海道大や山形県立米沢栄養大など8大学23学部で後期日程試験が中止になった。
鈴木氏:今年は綱渡り中の綱渡りでした。いや、一部の入試は中止になったのですから、綱渡りではなく綱から落ちています。国公立の二次試験は前期も後期も2月下旬〜3月上旬に実施されているので、ほとんど強行突破で、入試会場で感染が広がった可能性さえあります。
私は前々から「1月〜3月というインフルエンザがもっとも流行る時期になぜ一発試験で合否を決めるのか」という問題提起をしてきました。大学入試改革に対しては、「記述式は採点のブレが大きい」とか、「民間試験は受験機会に差が出る」といった批判がありましたが、インフルエンザに罹ってしまった子は1年間の努力が水の泡になり、流行っている地域と流行っていない地域でもまた、地域格差が生まれます。新型コロナでは差が出るどころか、受験機会そのものが失われた。受験生にとってはとんでもないことで、免疫力の弱い生徒にしわよせがくる。これも不公平ではないのでしょうか。
──共通テスト改革が白紙に戻ったため、大学ごとに個別で入試改革をすることになったが、今年の英語4技能(聞く、話す、読む、書く)の試験の実施状況はどうか。
鈴木氏:昔から秋田の国際教養大学は英語の民間試験を活用していましたが、今年は千葉大学や金沢大学、鹿児島大学、九州工業大学、山口大学、大阪教育大学、兵庫県立大学、福井大学などの国公立約20校と、上智大学、早稲田大学、明治大学、立教大学、中央大学、法政大学、学習院大学、関西大学、立命館大学など約100校が、全学部もしくは一部の学部で、英語の民間試験を利用しました。利用するというのは、入試の英語を民間試験で代用したり、あるいは、民間試験の得点を加算したりするということです。