新型コロナへの特効薬はないのか──そうした議論において、重要になるのが「エビデンス(科学的根拠)の有無だ。薬や治療法については、その効果と安全性を試す臨床試験などを経て初めて、広く患者に提供されるべきものである。しかし、日本人の死因第1位である「がん」の治療を巡っては、科学的根拠を欠いた高額な自由診療による治療がまかり通っている現状がある。『やってはいけない がん治療』を上梓したジャーナリスト・岩澤倫彦氏は、自由診療のクリニックなどが広告・宣伝のために使っている「医学論文」にはトリックがあると指摘する。どのように見破ればいいのか。
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がん治療で「標準治療」という用語を聞くと、その言葉からテストの「平均点」のようなイメージを抱くかもしれませんが、これは厳密な臨床試験で科学的に証明された、現時点で最も有効性が高い治療法のことを指します。日本では国民が誰しも平等に受けられる保険診療での手術、放射線、化学療法(抗がん剤など)が「標準治療」にあたります。
一方、一部の自由診療のクリニックが行っている「がん治療」には、科学的根拠=エビデンスがありません。このような、治療効果がわからないのに、高額な費用を患者に負担させて、「人体実験」に等しいことをやっている国は、先進国の中でも日本だけと言われています。
ようやく、国立がん研究センターや日本医学会が、この問題について患者に注意を呼びかけるようになりました。こうした状況を察したのか、ウェブサイトに「海外の医学誌に論文が掲載された」と紹介する自由診療のクリニックが増えてきています。
英文なので一見すると、すごい研究論文のように思えます。でも、だまされないでください。これには「カラクリ」があるのです。
◆「ハゲタカジャーナル」と「インパクトファクター」
医学誌の場合、「インパクトファクター」と呼ばれる引用回数で格付けがされており、信頼性はピンキリ。つまり、「どの」医学誌に掲載されたのかが、重要なのです。
最高ランクは、ニューイングランドジャーナル誌の「70」。続いてランセット誌「53」、JAMA誌「47」となっています(2019年6月公表データに基づく)。