コロナ自粛の長期化により、営業する店舗に匿名で貼り紙をしたり、外出する人たちに過剰に自粛を求めたりする市民の行為がエスカレートしている。過去の震災時にも起きたこうした“不謹慎厨”がこれ以上広がらないためにはどうすればいいのか──。同志社大学政策学部教授の太田肇氏が持論を展開する。
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新型コロナウイルスの蔓延により長引く自粛生活で、国民のイライラが募ってきた。それをぶつける先が、世間で「悪者」扱いされている人たちだ。
営業自粛に応じないパチンコ店の前で開店待ちをしている客に罵声を浴びせたり、詰め寄って写真を撮ったりする。ライブハウスや飲食店に脅迫めいた貼り紙をし、コロナ感染者が出た会社に嫌がらせの電話をかける。他府県ナンバーの車にあおり運転や投石をする。
それが相手の人権や営業権を侵害し、暴行罪や脅迫罪、名誉棄損などにつながる行為だという自覚はない。公園に子どもを連れて行っただけで警察に通報する人や、マスクをかけずに歩いていると絡んでくる人もいるそうだ。
力づくで自粛させ、要請に従わない者を取り締まろうとする「自粛警察」は、新型コロナウイルスがもたらしたもう一つの恐怖だといえるかもしれない。
ネットの世界にも他人を攻撃する投稿が蔓延している。SNSでは有名人の不適切な言動を匿名の第三者が増幅して伝え、バッシングする。それを見た多くの人たちがリツイートや「いいね」を押して拡散し、ネットを炎上させる。こうした現象は政府や自治体の自粛要請が始まってから明らかに増えている。
東日本大震災や熊本大地震、西日本豪雨の後でも、結婚パーティーを開く人、笑顔でスイーツを食べる写真をインスタグラムにアップする芸能人、新しいファッションをPRした企業などが「不謹慎狩り」のターゲットになった。
正義の名のもとに相手の落ち度や非協力な態度をとらえて一方的に叩くのは、学校や職場で起きるイジメの典型的なパターンである。
学校では校則を破る子や共同作業をサボる子が、職場では残業せずにサッサと帰る社員や、空気を読まない社員が周りから仲間外れにされたり、嫌がらせを受けたりする。それと同じことが、いっそう危険な形でいま各地に広がっているのである。