前述したように、海外では会計年度と学校年度の不一致がむしろ普通で、学校年度についていえば、アメリカに倣った9月始まりが圧倒的に多い。

 会計年度についていえば、アメリカは10月、イギリスと旧イギリス植民地のカナダ、インド、南アフリカは4月、南半球のオーストラリアとニュージーランドは7月、EU加盟国と中国・韓国は1月を始まりとする。ただし、アメリカでは連邦政府と州政府で違いがある。全米50州のうち46州が7月を始まりとしているのに対し、4月、9月を始まりとする州が各1、10月を始まりとする州が2つ存在する。

 明治日本は年度の区切りの変更を何度も重ねたが、1886年以降はずっとそのままできている。太平洋戦争に敗れ、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領下にあった時期に、アメリカのそれに合わせた変更がなされても不思議ではなかったが、実行されなかった。

 その要因は中国大陸の情勢にあった。1946年7月に始まる第2次国共内戦では、大方の予想に反して蒋介石率いる国民政府軍が劣勢に転じ、朝鮮半島北部にソ連軍が進駐を続けていることと相まって、東アジア全域が赤化する恐れが出てきた。それはアメリカにとって由々しき事態だった。

 そこでGHQ総司令官のマッカーサーは1947年3月に「早期講和構想」を発表。占領政策の柱であった非軍事化と民主化は達成されたとして、次には経済復興に重点を置いた。すでに着手済みの改革を除いては、既存の制度をできるだけ踏襲することにしたのである。

 サンフランシスコ講和条約の締結(1951年)により、主権国家としての独立を回復したのちの日本では何度か年度の変更が議論に上ったが、そのたびに多くの法改正に加え、大変な手間がかかるとの理由から事実上不可能と結論され、4月開始のまま現在に至るのだった。

 チコちゃん流に言えば、戦後の日本で4月新年度が続いたのは「マッカーサーの気が変わったから」と言えるかもしれない。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。最新刊は『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(青春文庫)。

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