新型コロナウイルスによって経済活動が沈滞するなか、詐欺師たちだけが活動を活発化させている。なかでも最近、目立つのは、免許証などの顔写真つきの身分証明書をみずから提示し、相手を信用させる手口だ。ライターの森鷹久氏が、彼らは身分証明書をどこから手に入れているのか、なぜいま、被害が増えているのかについてレポートする。
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警察庁は「新型コロナウイルス」に関連した詐欺が、先月27日時点で全国13の都道府県で32件発生し、計3117万円分の被害を確認していると発表した。マスク販売や、一律10万円給付金に関する詐欺被害が目立っているというが、厚労省など政府機関や警察は、これまでにないほどの「啓発」を行っている。それでもなお詐欺が、そして詐欺被害が減らないのはなぜか。どうして人は騙されてしまうのか。
今回、筆者の取材に応えてくれたのは関西地方在住の自営業・福田富雄さん(60代)。電気モーターの修繕、メンテナンスを行う小さな町工場を経営しており、社内環境はまさに密閉、密集、密接の「3密」だった。熟練の技術者はみな中高年で、万一感染してしまえば命に関わるとの報道も目にしていた。そんな懸念の中、3月の下旬には会社にストックしていたマスクが底をついたのだ。
「事務員さんが薬局やスーパーをあちこち回ったんですが、手に入らない。ちょうどその頃、妻のSNSに”マスク販売します”というメッセージが届きました。もちろん怪しいとは思いましたよ、しかし先方は”自分は貿易関係の仕事をしている”とか”コロナの影響でトラックが動かない”などと、いかにもそれっぽいことを言っており、結局万が一でもマスクが手に入るならと、言われるがままにマスク250枚分の5万円を指定された口座に振り込んだんです」(福田さん)
また、福田さんが相手を信用してしまった決め手は、先方から「免許証」の写真が送られてきたことでもあった。当然、名前や生年月日、住所までが記されており、ネットでその住所を検索したところ、架空の住所でもないことが確認できた。さらに、振込先銀行口座名義も、免許証に記載の名前と一致していた。
「振込先名義が法人でなかったので最後まで怪しみましたよ、ただ、免許証まで出して詐欺をするなんて考えられないとも思いました。マスクがないと仕事ができず、従業員も不安がるし、背に腹は変えられなかったんです。一縷の望みも持っていましたから……」(福田さん)
案の定、というべきか、金を振り込んでから一週間、そして二週間経ってもマスクが送られてくることはなく、妻がやりとりをしていた先方のSNSアカウントは消えた。その間に「金を振り込んだのにマスクが届かない」旨を記した内容証明を送付したが「住所不明」ということで返送されてきたのだという。
どんな形でも、そこに「人の弱み」があれば、詐欺師はそこに狙いを定める。彼らは”被害者”の置かれた立場、気持ちなどは一顧だにしない、連中の卑劣さが如実にわかるエピソードを続ける。
「今年小学校に入学したのですが、学校にも行けずずっと家にこもりきり。そんな子供に少しでも喜んでもらおうと”ニンテンドースイッチ”を購入しようと思ったんです。ただ、4月中旬の時点で店舗にもネットにもどこにも在庫はありません。仕方なく、SNS上でスイッチを譲ってくれる、という人にコンタクトをとったんです」
埼玉県在住の会社員・斎藤徹さん(仮名・40代)は、自宅での自粛生活に疲れた子供のために、SNS上のやりとりを経てゲーム機を購入しようと考えた。SNS上でのやりとりはトラブルになることも少なくないと、ネットニュースなどで読んでいたというが、子供のためには是非とも手に入れたかったという。