街から子供の姿が消えた。ゲームセンターや飲食店は軒並み閉鎖。遊具に「立ち入り禁止」と書かれた黄色いテープが巻かれ、公園にもいられない。ほとんどの学校は再開のめどが立っておらず、休校の長期化が予測されている。
確かに、感染を防ぐためには家にいるのがいちばんだ。しかし、いまの状況は子供にとって取り返しのつかないリスクになり得る。
子供の貧困に詳しい跡見学園女子大学教授の鳫(がん)咲子さんが指摘する。
「もともと非正規労働者の増加などの影響で日本の貧困世帯は増加傾向にあるのですが、新型コロナウイルスの影響で格差がさらに深刻になっています。多くの学校が休校になってすでに2か月が経ちますが、その間、食事すら満足にできず、日常生活がままならなくなる子供も多い。これまでも、“給食がない夏休みに子供の体重が減る”と指摘されてきましたが、すでに休校期間は夏休みの倍におよぶ。貧困世帯の子供への打撃が懸念されます」
新型コロナウイルスの背後で、子供たちに魔の手が忍び寄っている。
◆光熱費やドリル代が家計を逼迫
近年、日本の貧困の深刻化はたびたび指摘されてきた。
「住む場所がない」など、すぐさま生命にかかわるような貧困は「絶対的貧困」と呼ばれる。一方、社会において標準的な生活を送れないことを「相対的貧困」と呼ぶ。
日本の相対的貧困率は15.7%(2016年)で、OECD経済審査報告書によれば日米欧主要7か国(G7)のなかで米国に次いで高い。
ただでさえ貧困に苦しむ世帯が多いなか、コロナが非情な追い討ちをかける。
「コロナの影響で労働環境は様変わりしています。特に非正規労働者は突然仕事がなくなり、収入が途絶えるケースが見られます」(鳫さん)
世帯収入が減れば、当然子供たちは大きく影響を受ける。加えて長引く休校が家庭に与えるダメージは大きい。公益財団法人「あすのば」代表理事の小河光治さんが指摘する。
「長期にわたる家ごもり生活は出費を増やします。例えば学校の再開のめどが立たないいま、自主勉強のためにドリルなどの教材を買う必要が生じます。また、今年の春は冷え込む日も多かったため、暖房などの光熱費も余計にかかった。生活が苦しい家庭や生活保護の受給者であれば貯蓄もない。こうした家庭においては、微々たる出費も命取りになるのです」
小河さんが特に心配するのは給食がなくなった影響だ。
「毎日肉や魚、牛乳などを摂ることができる給食は余裕のない家庭では作れない。栄養に配慮した食材を買えなかったり、そもそも調理する時間がない場合もある。これまでも夏休み中に体重が大きく落ちる子供がいることは問題視されていましたが、今回のような60日を超える休校が子供の健康にどう影響するか非常に不安です」(小河さん)
とりわけ深刻な状況にあるのが、離婚や死別などで配偶者が不在のなかで子供を育てる「ひとり親家庭」だ。