新型コロナウイルスの影響で企業活動の全面再開もままならない中、今年もトップが交代する企業は多い。果たして新しいリーダーたちはこの難局をどう乗り越えていくのか──。ジャーナリストの有森隆氏が、注目企業の新社長の横顔とともにレポートする。
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新型コロナウイルスの感染拡大は“令和恐慌”をもたらす。物価や株価の下落によって、中小企業の倒産や操業短縮が相次ぎ、失業者が街にあふれる事態も十分に考えられる。
そんな大不況下でも、多くの企業で新社長たちが船出する。彼らに求められる資質とは何か。それは「有事」のリーダーになることだ。
「平時」のリーダーは規則をつくり、目標を与え、管理し組織に規律をもたらす人でなければならない。根回しや気配りに長けた調整型が重用される。現在の日本の大企業のトップの多くは平時のリーダーである。それぞれの企業の本流部門の出身で、中・長期の経営計画を立案する経営企画部長を務めることがトップへの登竜門となった。
これに対して有事のリーダーは非常事態に対処するわけだから、修羅場に強いことが必要十分条件、最大の資質となる。
5月現在、そしてこれからも修羅場は続く。食うか食われるか、決断の刻(とき)が、もうすぐそこにまで来ている。修羅場で鬼になれなければ有事のリーダーとして、成功はおぼつかない。
果たして今年の新社長たちは有事のリーダー足りうるのか。
◆二人三脚で有事を乗り越えてきた
百貨店は小売業の王者と呼ばれ、かつては無敵だった。だが、大型ショッピングセンターの出現やネットショッピングの台頭で、もはや絶対的な存在ではなくなった。これに新型コロナが追い討ちをかける。インバウンド(訪日観光客)需要が剥げ落ち、政府の緊急事態宣言による外出自粛で客足は遠のくばかりだ。
未曽有の百貨店危機の最中、J.フロントリテイリングは7年ぶりに社長が交代する。5月28日付で山本良一社長が退任し、後任に取締役で、大丸松坂屋百貨店社長の好本達也氏が昇格する。
同社の最初の「有事」リーダーは、前会長兼CEOで、相談役の奥田務氏である。
「老若新古に関わらず、信の心をたしなみ、才力をそなえたる人物を、ぬきんでて引き上げ、大役を申しつけるべきなり」
大丸の創業家である下村家に伝わる、店主の心得である。人材を登用する際に最も大切にしなければならない要諦が記されている。
バブル崩壊後の1990年代、大丸の業績はどん底だった。下村家12代当主、下村正太郎氏は1997年、末席常務の奥田氏に、大丸の再建の大仕事を託した。そして、社長に就いた奥田氏が営業改革の実行部隊長に指名したのが、梅田店の開設準備室で一緒に仕事をした山本良一氏だった。現在のJ.フロントの社長である。ここから奥田=山本の二人三脚の経営が始まる。
2003年5月、奥田氏は山本氏を大丸社長に抜擢した。一介の部長が12人の役員を一気に飛び越えて老舗百貨店の社長になるサプライズ人事だった。山本氏は、これ以降、奥田氏が進める百貨店改革の陣頭指揮を執ることになる。時に山本氏、52歳であった。