「(日本政府に抗議する)水曜集会をなくさなければならない。私はもう参加しない」──5月7日、韓国・大邱市内で記者会見を行った元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス、92)氏は、こう批判の狼煙をあげた。彼女が批判の矛先を向けたのは、挺対協(挺身隊問題対策協議会、現・正義記憶連帯)であり、その元代表で“反日市民団体のドン”と評される尹美香(ユン・ミヒャン)氏だった。挺対協は韓国内で最も影響力を持つといわれる慰安婦支援団体で、ソウル旧日本大使館前で行われている水曜集会を主催していることでも知られている。まさに衝撃の展開だった。
先の4月15日に行われた韓国総選挙では、コロナ対策が評価された文在寅大統領率いる与党・共に民主党が過半数を超える180議席を獲得し圧勝した。世論の支持を受けた文政権が再び反日路線に向かう可能性が指摘されているが、実際にはこの総選挙が、反日市民団体の分裂の引き金となった。
政治家への転身を目指した尹美香氏はこの総選挙に与党陣営の立候補者として出馬、当選した。市民活動家から国会議員へとステップアップを果たしたのだ。現地記者によると、李容洙氏は「尹氏は国会議員をしてはならない」と手厳しく批判しているという。
李容洙氏は慰安婦問題のスポークスマン的な存在として知られた人物である。2017年に公開された慰安婦問題を扱った映画『アイ・キャン・スピーク』の主人公として韓国内では広く知られ、訪韓したトランプ米大統領に抱きつくパフォーマンスをした元慰安婦と記憶されている方もいるだろう。彼女が尹美香氏の国政転身に不快感を示したのは、ある理由があったからだという。
「10年ほど前、一部の支援者が李容洙氏を国会議員にしようと盛り上がったことがありました。ところがその出馬に大反対をしたのが、挺対協や尹美香氏だったのです。結局、李容洙氏の選挙は支持が集まらずうまくいかなかった。それなのに尹美香氏は悠々と国会議員になった。『私たち元慰安婦は利用されただけだった』と李容洙氏が感じたとしてもおかしくはありません」(元慰安婦の支援者)
つまり尹美香氏が元慰安婦を踏み台にして、国会議員職という“名誉”を掴み取ったことに、激しい反発が起きている、ということなのだ。