佐藤愛子さんと小島慶子さんが夫婦関係や人生について手紙をやりとりした単行本『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』が刊行になった。『九十歳。何がめでたい』の発売から4年、変わらぬ怒り節を炸裂させる佐藤さんと、論客として知られる小島さん。世代も考え方も違う2人の“真剣勝負”は、こんな感じで展開される。
*
佐藤愛子(96歳)×小島慶子(47歳)
「酢ダコ」をめぐる手紙のやりとり(本書より摘要)
佐藤愛子
世の中にはいろんな人がいます。…「蛸の酢のもの」を酸っぱいから嫌いだという人を、味のわからん奴、と怒ってもしょうがない。また、無理に嫌いでなくなろうと努力する必要もない。…今の時代は何かというと人の気持をわからなければいけないといい過ぎる…エイいちいちうるせえ、と私はいいたくなる。
VS
小島慶子
佐藤さんは酢ダコに対する多様性に寛容でいらっしゃるのですが、私は「どんなに不味い酢ダコに当たっても、美味いと言わねばならない」と頑なに思い込んでいるようなのです。酢ダコ原理主義です。…酢ダコ嫌いであっても「酢ダコは美味い」と言うべく最大限の努力をするべきだと思っているんですね。
そんな往復書簡エッセイ『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』を、多くもねディアで書評を担当するライターの温水ゆかりさんが読み解く。
* * *
活字で会話する書簡集には、スリルと愛嬌がある。どんな話題が飛び出すか分からないのがスリルの部分、返球のワザに人柄がにじみ出るのが愛嬌の部分。“対談だって同じでしょう?”と思われるかもしれないが、決定的に違う。対談には編集サイドの意図が入るが、手紙には入らない。手紙は書き手が独りで行う文学行為だからだ。