金正恩・朝鮮労働党委員長につきまとう健康不安説、そして新型コロナウイルスが国内で蔓延しているとみられる北朝鮮。こうした国難ともいえる緊急事態は過去に幾度もあったが、独裁国家につきもののクーデターが起きないのはなぜか。ジャーナリストの宮田敦司氏がレポートする。
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金正恩氏の動静報道が長期間ないことで浮上した「重篤説」は、5月1日に映像つきの動静報道が再開されたことで、ひとまず終息した。しかし、体重130kgの正恩氏が、多くの生活習慣病を抱えていることは間違いない。重篤にはならなくとも、健康不安は常につきまとう。
このような良好とはいえない健康状態の影響で、正恩氏が執務不能になることが予測されていたかのように、正恩氏の妹である金与正氏がメディアに登場することが増えてきた。ただ単に妹として露出しているのではなく、労働党の要職へ就任するなど実力を伴った露出である。
正恩氏の父・金正日は、正恩氏とともに与正氏も後継者候補としていたともいわれている。このため、正恩氏の身に緊急事態が起きた場合は、与正氏が代行を務める可能性が高い。場合によっては後継者ということもあり得る。
◆世界でも特異な「独裁国家」
たとえ一時的な代行者であれ、独裁国家の最高指導者が最も恐れるのは、実力組織である軍が自らに銃口を向けることである。北朝鮮の最高指導者の脳裏には、ルーマニアの独裁者ニコラエ・チャウシェスクが自らの軍隊により銃殺刑に処せられた場面が焼きついていることだろう。
チャウシェスクと正恩氏の祖父・金日成は親交があり、金日成の統治手法に感銘を受けたチャウシェスクが、金日成の統治手法を真似していたのだから、なおさらだろう。チャウシェスク政権は1960年代から1980年代にかけての24年間にわたり存続したわけだが、70年以上存続している北朝鮮とは比較にならない。
北朝鮮は世界的に見ても特異な独裁国家である。3代(金日成・金正日・金正恩)にわたって最高権力を世襲しているからだ。世襲を行った独裁国家はシリアのアサド政権などの例があるが、軍を完全に掌握し、3代世襲に成功したのは北朝鮮だけである。