【書評】『一生勝負 マスターズ・オブ・ライフ』/高橋秀実・著/文藝春秋/1500円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
「人生経験が基礎体力」という、27人の長寿アスリートたちの物語である。71歳から89歳のスポーツ精神は、しかし決して暑苦しくはない。「稽古が終わってもふらふら」になりながら、人のできないことを「やって見せて『どうだ!』」と胸を張る。「年齢のサバイバルレース」に挑んでいるのである。
走幅跳を楽しむ77歳の主婦は、追い風を待って「風に乗る」のだという。自分を試したいと、48歳のチャレンジから欠かさず陸上大会に出場しては、記録を伸ばしてきた。その記録が年齢とともに落ちるのを確認したことで、逆に「自分が生きていること」の実感を得る。
参加選手が少ないため、これまで獲得した「優勝のメダル」は300個以上。「書き物をする時に文鎮としてお使いください」と、著者に金メダルを3個もプレゼントした。
「重量挙げをやめたら、俺は何をして暮らすんですか」と語る80歳のウエイトリフターは、マスターズで4つの世界記録を樹立。「膝がチクチク痛いのに、バーベルを持つと痛みが消える」のは、バーベルに向かうことで身心が「安定する」からだ。そしていまや、「重量挙げは死ぬまでの時間つぶし」と達観する。