大手銀行員だった富岡哲也さん(仮名、64)は、結婚を機に妻の親戚が営んでいた鉱山事業の会社を引き継ぎ、経営している。そんな富岡さんが無人島を買おうと思いついたのは、今年の正月のことだった。
「仕事も落ち着いてきて、リタイヤが見えてきまして。そろそろのんびりしたいと思ったのがきっかけです」
忙しい毎日を送っていた富岡さんが終の棲家に選んだのは、ある不動産会社の紹介で知った九州の無人島だった。約5万坪で8500万円、電気は通っているが水道はない。建物は多少の改修が必要になるが、躯体はしっかりしているので出費が少ない。
「一人では広すぎると思いましたが、島の大きさと夢の大きさは比例すると思って。せっかくなら、自分の手を加えられる部分があったほうがいいと思い、開発の余地があるこの島を選びました」
仕事上、ボーリングの基礎知識があったので、井戸を掘るのに役立った。法律や資金的な問題にぶつかった時には、銀行員時代の知識が助けになった。
「不思議なことですが、今まで仕事で培ってきたことが、自分の島暮らしに活かされる場面が少なくありませんでした。周囲から『大変そうだね』と言われることもありますが、私としてはすべてが楽しいですね」