新型コロナウイルスは世界を一変させた。日本全国を対象に発出された「緊急事態宣言」は39県で解除されたが、「もう元の世の中は戻ってこない」との声が多く聞こえる。感染拡大の第2波、第3波への警戒が続くなか、収入の大幅減や失職という経済的打撃が各所で顕在化している。日本や世界がかつて経験したことのない、緊張感を強いられる日々が今後は長く続くはずだ。人類は、この危機的状況をどう乗り越えていけばいいのか。
アフター・コロナ、アンダー・コロナのストレス社会を生き抜く力として注目したいのが、1970年代にユダヤ系アメリカ人の医療社会学者であるアーロン・アントノフスキー博士が提唱した「首尾一貫感覚」だ。心理カウンセラーでヒューマン・ケア科学博士の舟木彩乃氏が解説する。
「首尾一貫感覚とは、第二次大戦中にナチスドイツの強制収容所から生還しながら、更年期になっても良好な健康状態を維持している女性たちが共通して持っていた感覚のことで、次の3つから成ります。
【1】把握可能感(「だいたいわかった」という感覚)……自分の置かれている状況や今後の展開を把握できると感じること
【2】処理可能感(「なんとかなる」という感覚)……自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると感じること
【3】有意味感(「どんなことにも意味がある」という感覚)……自分の人生や自身に起こることには意味があると感じること
これらの感覚が高いとストレスに押しつぶされることなく、むしろそれを前向きの力に変えられると言われています。3つの感覚はお互いを補完する関係で、例えば“今の状況をだいたい把握できている”という把握可能感を持てれば、“なんとかなるだろう”という処理可能感を持つことができます。首尾一貫感覚は先天的なものでなく、後天的に高められるという特徴もあります」(舟木氏)
世の多くのことは把握可能感と処理可能感で「だいたいわかった、なんとかなる」と捉えられれば解決できるが、コロナという“強敵”には、さしもの首尾一貫感覚も分が悪い。
「感染の集団発生は国際的に災害のひとつとされ、戦争と同様に、やり場のない怒りや不安、恐怖といった心の問題を引き起こします。また外出自粛により行動の自由を制限されると、感情が失われ、阻害されている気持ちになる『拘禁反応』が生じることがあります。新型コロナは未知の部分が多いウイルスのため、一時的に落ち着いても今後の拡大状況が不透明で、自分や家族が感染して命を失う恐怖や、大不況となって収入が絶たれる不安などから、『だいたいわかった、なんとかなる』とは思えない。把握可能感や処理可能感では歯が立たない相手です」(舟木氏)