新型コロナウイルス「緊急事態宣言」が39県で解除され、各地で学校再開の動きが活発化している。一方で、5月末まで休校措置の継続が見込まれる東京など8都道府県では1学期の半分が失われることになる。ウイルス流行の第2波・第3波が懸念され、児童生徒が学校に通えない事態が6月以降にも生じる可能性はあり、就学中の子供を持つ親は気が気ではない。そんななか、にわかに注目を浴びている打開策が、学校年度の始まりを9月にずらす「9月入学への移行」である。
小池百合子・東京都知事と吉村洋文・大阪府知事は4月30日、9月入学の導入を求める共同メッセージを発表し、同様の提言を行っていた宮城県の村井嘉浩知事らに賛同した。日本経済新聞が都道府県知事を対象に実施したアンケート調査によると、回答した知事の約6割(41人中24人)が9月入学に賛意を示したという(2020年5月12日付)。安倍晋三首相も同14日の会見で「前広に検討していきたい」と述べ、与野党がそれぞれ論点整理を始めている。
9月入学に移行すれば、失われた学期の問題は解決するのか。仮に移行すると決めたとして、本当に実現可能なのか。“秋入学論者”として知られる元文科副大臣の鈴木寛氏(東大大学院・慶應大教授)に訊いた。
* * *
──にわかに議論が活発化した9月入学制だが、どんなメリットがあるか。
鈴木氏:まず大学と小中高校では議論を分けた方がいいでしょう。大学については、東大の濱田純一前総長が2011年頃から秋入学の導入を検討し始め、私は当時、文科副大臣の任にあり、この案に賛成し、全面的にサポートしていました。
濱田前総長がメリットとして挙げていたのは2つ。1つは学事暦を欧米の大学に合わせることで、優秀な留学生を集められ、同時に日本人学生も海外の大学に行きやすくなること。もう1つは、高校を3月に卒業してから9月に大学に入学するまで、半年間の「ギャップ・ターム」が生まれることです。半年とはいえ、教室の外へ出て自由な時間を得られるので、海外に行ってもいいし、社会に出て今まで知らなかった世界で働いてもいい。さまざまな体験をしてから大学に入学することをメリットとしていた。
しかし、学内の教養部などから反対が起き、9月入学案は見送られました。詳細は不明ですが、卒業が半年遅れることへの懸念や、ギャップ・タームに対する考え方の違い、移行に伴う事務作業の煩雑さなどが反対の理由だったのではないでしょうか。
ただ、現在、東大の大学院については4月入学・9月入学の併用になっています。私が教鞭をとっている東大の公共政策大学院では、4割が留学生で9月入学です。慶應大SFCでは学部でも4月入学・9月入学の併用です。ただし、9月入学は留学生とAO入試合格者(日本人含む)ですが。これは他大学に配慮しているのと、一般入試を年2回やるのは事務的に大変だからです。他にも、留学生を受け入れるために4月・9月入学を併用している大学・学部は、東北大や名古屋大、大阪大、早稲田大、上智大、ICU(国際基督教大学)など、国公立、私立にかかわらず、すでに数多くあります。つまり、大学に関しては文科省がとやかく言うことではなく、大学ごとで独自に判断して9月入学に対応できる。制度上ではすでにそうなっています。もちろん、制度上はそうであっても、一部の大学だけで急激かつ大々的に実施するとそこだけ9月入学の学生が急増して混乱するので、国立大学協会(国大協)、私立大学連盟、私立大学協会と全国高等学校校長協会、私立中高連などでよく話し合って、多くの大学が同じタイミングで、秋学期の入学者定員を一斉に増やしたほうがいいでしょう。