官邸肝煎りといわれた検察庁法改正は、ネットの炎上や検察OBの反対表明を受けて、あっという間に衆院採決見送りに追い込まれた。そればかりか渦中の黒川弘務・東京高検検事長は自粛下で賭け麻雀に興じていたことが発覚し、辞任に追い込まれた。この問題を追及してきたジャーナリスト・森功氏が、その内幕に迫った。(文中敬称略)
* * *
首相の安倍晋三があれほど拘っていた今国会の法案成立を諦めたのはなぜか。その最大の理由の一つが、5月15日の「言論テレビ」だと見ていい。ジャーナリストの櫻井よしこがインタビュアーを務めるネット番組に対する想定外の反響である。
首相本人が番組に登場し、櫻井が1月31日に閣議決定した黒川弘務・東京高検検事長の定年延長について、こう尋ねた。
「ぜんぶ法務省から官邸にもってきたものですね。(官邸は)なんら働きかけていないのですね」
そう振られた首相は、待ってましたとばかりに「ハイ」と明言。黒川の定年延長は法務省が決めた案に従っただけだというわけだ。官庁に責任を押し付ける常套手段は、インタビューで用意された想定問答なのだろう。
しかし、今度ばかりは勝手が違った。黒川人事に官邸が関与していないなんて誰も信じない。これが世論の火に油を注ぐことになり、身動きがとれなくなったのである。
「官邸の守護神」と異名をとる黒川の事務次官時代は、モリカケ問題の時期に重なる。加計学園問題で文科大臣の下村博文の裏献金疑惑、森友学園問題では財務省の役人たちによる公文書の改ざんまで発覚し、いずれも検察の捜査は不発に終わった。黒川がどう立ち振る舞ったかは明らかになっていないが、首相官邸が恩義を感じてきたのは間違いない。