ドラマと原作の関係は一筋縄にはいかない。必ずしも忠実であることが求められるわけでもないが、原作に思い入れを持つ読者はギャップに戸惑うことが少なくない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。
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新作ドラマをなかなか見ることができない。そんな「飢餓状態」の中、注目を集めている新作があります。「海外ロケを大々的に行い贅沢な映像に仕上げ、主役は波瑠」とくればドラマ好きが飛びつかないはずがない。土曜日午後9時、NHK・台湾の共同制作による土曜ドラマ『路(ルウ)~台湾エクスプレス~』です。
台湾新幹線の建設プロジェクトを軸に、日本人と台湾人の絆を描き出した吉田修一の同名小説が原作。脚本は大河ドラマ『篤姫』『江』などを手がけてきた田渕久美子が担当しています。
物語は……多田春香(波瑠)が勤める大井物産は1999年、台湾高速鉄道車両システムの優先交渉権を獲得。春香は新幹線建設チームの一員として台湾へ出向する。
実は春香の心の中にはエリック(アーロン・炎亞綸)という一度だけ会ったことのある台湾青年の姿が刻まれていた。連絡先がわからなくなり二人は会えないままだったが、とうとう再会することに。その一方、春香には恋人の繁之(大東駿介)という存在が日本にいて…。
まず何よりもインパクトがあるのは、鮮やかに立ち上がる台湾ロケの映像でしょう。青々と繁る南国の木々、グァバ畑の間を疾走するスクーター。スコールと太陽の日差し、海鮮粥の湯気が立ち上る屋台、夜市に輝く果実。
新型コロナの感染拡大で外出自粛となり自分の住む街ですら呑気に出歩けない今。ましてや外国なんて、とても遠い。以前はあんなに気軽に出かけていたのに。
「行けない状態」になればなるほど、異国の風景がまぶしい。街の匂い、路地から響いてくる異国語。旅の郷愁のようなものすら漂う映像に、心を奪われます。そうした映像を背景にエリックへの気持ちを抱えて揺れる春香を、波瑠が瑞々しく演じています。
という恋愛ドラマかと思いきや、原作が吉田修一氏だけに物語はそう単純ではなさそう。新幹線建設の話に加えて、台湾で生まれ育ち終戦で日本へ引き揚げた、いわゆる「湾生」の葉山勝一郎(高橋長英)のエピソードが印象深く挿入されるからです。
ドラマに導かれるようにして原作小説を手に取り「映像→文字」という流れで二つの作品世界を味わってみることにしました。いわば新型コロナがくれた数少ない豊かな時間、偶然の恩恵とも言えるひととき。
吉田氏の原作小説は文庫で500ページ近くと厚みのある世界です。その中にたしかに春香とエリックとの邂逅やほのかな恋も描かれていました。が、しかし『路』というタイトルの意味は奥深く、道筋は決して1本ではないのでした。