警察や軍関係、暴力団などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、ヤクザ業界の外出自粛生活を伝える。
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「本日はチャーハンにしました」
巣ごもり自粛が続く中、暴力団の元組長からLINEで送られてきたのは今日の夕飯。これまでいろいろと美味しいものを食してきただろう彼らが、外食もできず、夜の街に飲みにも行けず、さぞかしつまらない日々を送っているのでないかと聞いてみたところ、なんと毎日のように自宅で料理の腕をふるっているのだという。
「稼業のもんは、料理がうまいやつが多いんだ。まずいものは作れないから、料理するのも真剣でね。組事務所に住み込んで働く“部屋住み”を経験したやつもいれば、当番で覚えたやつもいる。俺も料理は好きだな。ちゃちゃっと作って『美味い!』と言われれば嬉しいものさ。だから今は自粛で外に出られない分、家で“当番レシピ”を再現している」
組事務所の当番は、朝6時の起床とともに始まる。朝食の支度をし、掃除を終えると、組長や組員らの飲み物やおしぼりを出したり、灰皿の交換をしたり、用事を言い使ったりする。灰皿の交換は1日に何度換えるかわからないほどになる。電話番の者はカメラモニターを見ながら、組の者やお客、時には警察などの出入りを知らせる。することがない時はテレビを見たり、人が多いと花札やマージャンなどで時間を潰す。
当番が賄いを作るのは朝と晩の2回。ヤクザ稼業の当番レシピに特別なものはない。高級そうな料理が出てくるのかと思ったが、おでんに水炊き、肉豆腐…と普通の家庭料理のような地味な料理名ばかりが並ぶ。料理の基本は手早く作れて、美味しく、がっつり食べられるもの。その日のメニューは当番任せだが、高い肉が届いた時はすき焼きが定番らしい。
中でも不動のメニューは、やっぱり…。
「一番人気はカレーだ」
相撲部屋のような独自の味やレシピはないが、各組の腕自慢たちが作る味がその組独自の味になっていくという。
暴力団組織は本家を頂点にしたピラミッドになっている。下部団体の組は、上部団体の組に持ち回りの当番という形で人を出すのが決まりだ。上部団体の組がどこにあるかによるが、地元なら月に3回当番があり翌日には帰る。地方から当番に行く時は、往復が大変なのでまとめて3泊4日で入ることになる。
下部団体から当番に行くのは一度に2~3人だが、大きい組だといくつかの組が一緒に当番に入る。部屋住みもいるので、組が大きければかなりの人数になる。部屋住みも2~3人から、大きいところだと10人ほどいて、九州のある組織などは部屋住みで10年以上入っている者も大勢いるらしい。
あちこちの組から当番が来るのだから、美味しい料理を作る者はおのずと評判になるのだろう。
「同じルーを使っていてもどこか違う。どの組にも料理自慢のやつが一人はいて、隠し味や作り方を工夫しているんだな」
元組長もそんな一人だったらしい。
「俺のカレーは牛スジカレー。下処理は丁寧に、手早く煮込んで、隠し味に砂糖をほんのひとつまみ入れるとコクが違う。そこに醤油をほんの数滴たらせば絶品だ。3泊4日ほどの当番の間、必ず1食はカレー。当番に行くと必ず『あれ美味かったから、また作ってよ』と言われたからさ」
「カレーは牛しか作らない。大阪ではポークカレーは絶対にダメだ。大阪の人間にポークカレーを出したら『そんなもん食えるか!』『豚肉はお好み焼きの具だ!』と怒られる。食べる前から拒否。若いやつらにさえ『勘弁してくださいよ~』と言われるのがオチ」