4月、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための休業要請が議論になったとき、美容室と理容室を休業要請の対象業種に含むかどうかが議論になった。結局、休業要請から除外されたものの、対象になるかもしれない業種だと広く知られたことによる影響は大きかった。業界団体に政治的な発言力が強かったため、対象業種から外されたと言われる理容室だが、市井の店主たちは営業続行によってさらに苦しんでいる。ライターの森鷹久氏が、理容室主たちの嘆きをレポートする。
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5月中旬、千葉県某市のある理容室の店頭で「赤青白」のサインポールがカラカラと虚しく音を立てながら回っている。
「4月は前年比の3割ほど、ゴールデンウィークに入ってからは2割以下。今日も朝から明けて、夕方までにお客さんはたったの2人です。不要不急以外の実態なんですよ、これが」
店主の理容師・相根哲郎さん(仮名・40代)が肩を落とす。常時4人体制で回していた店内業務は、相根さんともう1人の勤務体制に縮小したが、それでもやることはほとんどない。普段はやらない店の隅々までの掃除、窓拭き、ハサミやカミソリの手入れもすっかりやり終え、ただただ客を待つばかりだが、来るのは日に2、3人。新型コロナウイルスの感染を心配してか、シャンプーなしのカットのみで終え、客は足早に店を去っていくという。
「東京都が緊急事態宣言を発表した時、理容室は自粛対象でした。一方で、美容室は休業要請の対象外。ということは、理容室の客が美容室に流出する恐れがある。そういう理由からか、組合などが役人や役所に掛け合って、理容室は結局自粛対象から外れたそうです。東京に倣ってか、千葉県も同様です。私としては休業したかった。明けていても客は来ないし、休業協力金も出ない。無い無い尽くしなんです」(相根さん)
新型コロナウイルスの感染拡大を報じるニュースを見て、自身の店でも「クラスター」が発生するような事態が起きてしまうのではないか、不安で仕方なかった。福岡県の美容院でクラスターが発生したという報道も見ていたからだ。
「密接でないと理容サービスは提供できない。マスクをしたり、自作のフェイスシールドを装着したり、もちろん消毒も換気も徹底的にやっています。それでも不安はある。顔そりは客のマスクを外します、咳でもされたらびっくりするが、客商売です。嫌な顔なんてできません」(相根さん)