多様性が叫ばれる世の中をサバイブするポイントは、柔軟な思考である。大人力について日々研究する石原壮一郎氏が提唱した。
* * *
「おかげさま」という言葉は、もっとも美しい日本語のひとつ。具体的な行為や相手に感謝を伝えるときにも、神仏など目に見えない力に漠然と感謝するときにも使えます。いろんな場面でサラッと「おかげさまで」と口にできるかどうかが、一人前の大人か否かの境目といっても過言ではありません。
長引くコロナウイルスとの戦いによって、経済もひとりひとりの心身も激しく疲弊しています。誰もが怒りやイライラの感情に支配され、世の中全体がギスギスした雰囲気に包まれている今だからこそ、大切にしたいのが「おかげさま」の気持ち。
コロナ禍における政府の対策でもっとも評判が悪かったのは、全世帯に2枚ずつ配布するとした布製マスク、通称アベノマスクではないでしょうか。最初に話を聞いたときには、多くの人が激しく意表を突かれてひっくり返りました。
安倍首相が配布を表明したのは4月1日。厚生労働省のHPによると、50日ぐらい経った5月21日現在、配布が始まっているのは13都道府県のみ。あとは「準備中」となっています。ウチにもまだ届いていません。そうこうしているうちにドラッグストアなど店頭にも、まあまあ妥当な値段で高性能のマスクが並び始めました。
アベノマスクに関するあれやこれやに対して、批判したり嘲笑したりするのは簡単です。しかし、もうこれ以上マイナスの感情は抱きたくはありません。困難を承知で、美しく清々しい「おかげさま」という言葉と、トホホの極致であるアベノマスクを結び付けてみましょう。これも、大人としてひと皮むけるための修行です。