「『昔はこうだった』とか、『オレの若い頃は』っていう、昔話が多いんです。実際、すごく多いかはわからないけど……気になり始めると、そればっかり気になっちゃって、寝室でやってるオンライン会議や飲み会もチェックしちゃいました。年とって、過去の自慢話ばかりする人って、ダサいじゃないですか。ああ、この人もそのクチだったんだって思ったら、少しずつ冷めていきました」
ある時、咲子さんは、仕事での言葉遣いが乱暴ではないかと、哲也さんに諭したという。彼女だからこそ、職場の人たちが思っていても言えないことを、言わなければいけないと思って。
「そうしたら、鼻で笑われたんです。『君のような、お遊びじゃないんだよ』と言われて、キレました」
◆「知らなくていい一面」だったのか?
半年の付き合いでは見えないものがたくさんあったのだと、咲子さんは、今、冷静になって思う。仕事をしている姿というのは、実際に近くで働いてみないとわからないものだ、とも思う。在宅ワークによって、はからずも、その一端を見てしまった。
「知らないまま結婚していたら、それはそれで上手くいったのかもしれません。私はコロナで、彼の知らなくていい一面を、知ってしまったのかもしれない。男の人って、働いているときと、家庭にいるときは、別人格ともいいますし……。ただ、結婚して、喧嘩したり揉めたりしたときに、きっと私も『バカヤロー』って怒鳴られるんだろうと想像すると、耐えられなくなりました」
これまで、年上の彼氏に“大事にされている”“甘やかされている”と感じていた言動の一つひとつが、“バカにされている”“舐められている”と感じられるようにもなった。
「だって、私の仕事を、『遊び』って言うくらいですからね……。そういう目で見ていたのかと、ショックでしたし、見返してやりたい気持ちが湧いてきました。家事もやる気が起きなくなって、最近は、テイクアウトばっかりです(笑)」
かくして咲子さんは別れを決意した。一つ屋根の下に暮らす今は、事を荒立てまいと、哲也さんにはっきり告げてはいないが、ゆとりある時間を今後の人生計画に充てているという。自分が相手に求めるものも、はっきりした。
「やっぱり、私は、対等に付き合える人がいいなと思いました。自分の仕事をなんとかしなくちゃいけ部分もあるんだけど、今は、仕事があるだけありがたい状況なので……、まず、結婚のほうを頑張ろうと。婚活サイトに登録してみようかなと思っています。今、狙い目なんですって。コロナでみんなヒマだから、登録者の質が上がっていると聞いたんです」
ピンチをチャンスに変えたい。咲子さんは前を向いている。
(※名前はすべて仮名です)