コケは古来、和歌に詠まれたり、日本庭園に利用されるなど、日本人には身近な存在だ。 その背景にはコケの種類の豊かさがある。降水量に恵まれた日本はコケの生育に適した環境で、世界のコケの1割にあたる1800種近くが分布している。そんなコケの生育環境を守ることを目的に、日本蘚苔類学会では「日本の貴重なコケの森」として、全国に29か所の重要な場所を選定している。
近年は、そんなコケの森を訪ねるアウトドア派のコケ好きが増えている。また、静寂な寺院の苔庭を巡ったり、苔園芸を趣味にする向きも多い。コケ文化の源流は、飛鳥時代に中国から移入された占景盤と呼ばれる盆石に遡る。本来はひとつの石だけを盆に据えて鑑賞する縮景芸術だが、やがて草木やコケなどを用いて自然の景趣を表現するようになり、侘び寂びを体現する庭園にも影響を及ぼしていったのだ。
そんなコケ大国・日本では、雄大な自然が織りなす神秘的なコケの森や、和の心を感じる寺院の苔庭など、コケの観察スポットが全国に点在する。緑薫り立つ癒しのスポットを紹介しよう。
◆八ヶ岳白駒池周辺の原生林(長野県南佐久郡佐久穂町、及び小海町)
駐車場から白駒池にたどり着くまでの「白駒の森」や池を囲む木道をしばらく歩いた場所にある「もののけの森」など、白駒池周辺には神秘的な原生林が広がり、500種類を超えるコケが息づく幻想的な風景が広がる
◆富士山「村山古道」(静岡県富士宮市)
富士山には多彩なコケが生育し、主として北西側の原生林の森が広がる青木ヶ原や御殿場口の3~4合目周辺に著しい植生が見られる。オススメの観察スポットは村山古道で、山地帯には見事な緑の絨毯が広がる。(※新型コロナウイルス感染拡大防止のため今夏は登山道を閉鎖。詳細は「富士登山オフィシャルサイト」にて要確認)
◆チャツボミゴケ公園(群馬県中之条町六合地区入山)
群馬鉄山の跡地を緑化して造園された公園で、鉱床跡を覆うチャツボミゴケと、コケの群生の中を縫うように流れ落ちる瀬が神秘的な光景を織りなしている。チャツボミゴケは最も耐酸性が強い種で、「温泉ゴケ」とも呼ばれる。(※開園時期は4月中旬~11月下旬。現在、新型コロナウイルス感染防止のため閉園中。再開についてはHPにて要確認)