【著者に聞け】中村計氏/『金足農業、燃ゆ』/文藝春秋/1800円+税
「高校野球でこれ以上心を動かされることはもうないと思っていましたが……」
北海道代表・駒大苫小牧の連覇の舞台裏を描いた前作『勝ち過ぎた監督』で、講談社ノンフィクション賞を受賞した著者の琴線に再び触れたチームが、2018年夏の甲子園に現れた。エースの吉田輝星(現・日本ハム)を擁して準優勝した秋田代表・金足農業高校だ。刀を抜くような吉田の「侍ポーズ」などが話題となり、日本列島に「金足フィーバー」を巻き起こした。
「自分なりの勝てる監督像やチーム像が全部崩れて、それが気持ちよかった」
と、著者が爽快感すら覚えるほど、〈何から何まで「ありえないチーム」〉だった。しかも、県大会から甲子園決勝まで、3年生9人だけで戦い抜いたのだ。
「9人は30分程度の通学圏から集まっているだけ。練習もクラシックで、雪国というハンディもある。でもこれで勝てるんだって思いました。こんな奇跡的なチームは二度と現れないんじゃないでしょうか」
著者が描く甲子園ノンフィクションに一貫した力強さは、取材対象者に決して阿らない、大胆かつ繊細な筆致にある。本書でも、白い球を追い掛けるナインの生き生きした姿だけでなく、その一挙手一投足に込められた思いや葛藤、監督やコーチに対する素直な気持ちにまで迫っている。