その発表は、彼らにとってあまりにも残酷なものだった。新型コロナウイルスの影響で、夏の全国高校野球選手権大会と地方大会の中止が決定した。
発表を受け、全国の高校から聞こえてくるのは、高校3年生の悲痛の声。なかには、人目もはばからずむせび泣く生徒もいたほどだ。
落胆と激励の声は球児以外からも聞こえる。ダウンタウンの松本人志(56才)は、「小学生くらいのときからずっと甲子園に出ることが夢でやってきた子にしたら『ちょっと待ってくれ』となる。なんとかできないか。甲子園の砂を贈ってあげるとか」と発言。元高校球児の小泉進次郎環境大臣(39才)も、「言葉もない。球児の思いを燃焼できる場を作れないか」と、彼らを慮った。
こうした声を受け、各地の高校野球連盟(高野連)は、代替大会を検討しているようだが、未定な部分が多い。かつての高校球児は、この事態をどのように感じているのだろうか──。
◆高校野球は理不尽ばかり 私が味わった地獄を語ろう
「エモやん」の愛称で知られる江本孟紀さん(72才)は、阪神タイガースのエースを務め、現役引退後は国会議員にまでなった。しかし、高校3年時は苦難の連続だった。
江本さんの高知商業は、春のセンバツ大会に出場が決定していた。ところが、直前にチームメートの暴力行為が発覚し、出場辞退に追い込まれる憂き目に遭っている。
「加えて4月1日から1年間の対外試合禁止処分が下されて、野球部は解散。当然、夏の地方大会にも出場できません。優勝候補ということでたくさんの寄付金も集まっていた。そんななかでの出場辞退。まさに地獄。あのときは、今後の人生、ひがみと妬みだけで生きていこうと思ったくらいです(笑い)」
しばらくは放心状態で、野球をやりたいとは思わなかったという江本さん。次の目標に向け気持ちを切り替えることができたのは、長嶋茂雄氏の存在が大きかったという。