4月上旬に新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発出された当初、経済の困窮や、巣ごもりによるうつなどで、自殺者の増加が懸念されていた。しかし、厚生労働省のデータによると、4月の自殺者は昨年4月より19.8%も減少。過去5年で最も大きな減少幅となった。精神科医の片田珠美さんはこう分析する。
「フランスのマクロン大統領が『ウイルスとの戦争状態』だと表現したように、みんなで力を合わせてコロナと闘おうという状況でした。こういうときは、アドレナリンというホルモンやドーパミンという神経伝達物質が出て、ある種の興奮状態になるので、自殺が減ったと考えられます。実際に、第二次世界大戦中は世界的に自殺者が減少したというデータがあります」
もう1つは、会社や学校へ行かないことによるストレスの軽減だ。片田さんが続ける。
「会社や学校に行って煩わしい人間関係に悩まされずにすむようになった人は少なくありません。発達障害の子供が、休校になってから落ち着いて生活できているという報告も受けています。緊急事態宣言解除後も、団体行動や人づきあいが苦手な子はオンライン授業で対応するなど、選択肢を増やすべき。絶対に学校や会社へ行かなくてはならないという考え自体が見直されるべきです」
コロナ自粛で一緒に過ごす時間が増えた相手といえば、やはり「家族」だろう。DVや虐待の増加など、ネガティブな面ばかりが指摘されているが、本来、家族と過ごす時間はかけがえのないものだと片田さんは言う。
「家族は、自分の存在価値を再確認できるコミュニティーです。家族と過ごすことで、自分は必要とされている存在だと実感することができます。『コロナ離婚』や『コロナ虐待』といった問題は、いままで見て見ぬふりをしてきた家族の歪みがコロナ自粛をきっかけに表面化しただけです。家族との問題や関係を見直す機会になったと思います」(片田さん)
◆政治にもの言う日本人
アベノマスクに始まり、全国民への10万円給付や、自粛要請に対する各都道府県知事の対応など、コロナ禍では自分たちの生活に「政治」が密接していると気づく機会も多かった。SNSには政治に対する主張が目立ち、芸能人たちが「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけて、活発に意見したことも注目された。