中国の全国人民代表大会(全人代)で、香港の言論の自由を制限するものとして問題になっている香港国家安全法の制定が決定された問題で、これまで中国による統制強化に抵抗してきた香港の民主活動家たちに動揺が走っている。“民主の女神”として日本でも知られる周庭(アグネス・チョウ)さん(23)は、『香港デモ戦記』(集英社新書)著者でジャーナリストの小川善照氏の取材に対し、率直な心情を吐露した。
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「この先、香港がどうなってしまうのか、先のことを考えると、本当に怖いです。国家安全法ができると、香港にいても中国の警察に逮捕され、中国に送られることになるかもしれない。そうしたら、もう終わりです」
香港の民主活動家の周庭は、香港国家安全法の制定が決まった2日後(5月30日)に行った電話インタビューで、こう漏らした。香港人の置かれた状況と主張を代弁する彼女にはこれまで何度もインタビューを行なってきたが、ふだんの毅然とした物言いとは違った弱音が聞こえてきた。
15歳から政治活動に身を投じた周庭は、昨年8月30日、違法集会を呼びかけた容疑で逮捕され、現在も保釈中の身で、海外渡航などが禁止されている。この先、国家安全法によって逮捕されることがあれば、長期にわたる禁固刑に処されるかもしれない。「生きているうちに、もう一度、日本に行きたかったです」という彼女の言葉は、決して大袈裟とは言えない。
「国家安全法によって香港人の生活は一変します。SNSを使う権利も制限されるでしょう。現在の香港では普通にインターネットに書き込める『天安門』や『64』(天安門事件のあった1989年6月4日のこと)などの言葉も制限されて、使用すれば、場合によっては逮捕されるかもしれません」
これまで香港では、中国本土と違い、報道の自由、言論の自由が保障されてきた。中国では禁止されているフェイスブックやツイッターも使うことができ、SNS上での中国政府批判も許されてきたが、国家安全法成立以降は摘発される可能性があるという。
「国家安全法がスタートすると、中国は香港に国家安全部の出先機関を設置します。そこで中国の秘密警察が活動すると言われています。そのニュースが発表されてから、多忙もありますが、不安でほとんど寝られません。また、銅羅湾書店事件のようなことが、普通に行なわれるようになるのではないか。それは、とっても怖いことです」
銅羅湾書店事件とは、中国政府の批判本を発行していた書店の関係者5名が2015年10月から次々と失踪し、中国に連れ去られた事件だ。これは中国公安による非公然活動によるものだったことが明らかになっている。そうした弾圧がこの先の香港では日常になるかもしれない。
彼女にとって一縷の望みは、世界からの抗議の声だ。英米をはじめ30か国以上の国会議員らによる国際的な反対声明の署名が行なわれている。この運動には、日本の国会議員も与野党を超えて100名以上も名を連ねた。
「本当にありがたいことです。日本の政治家の人たちがここまでしてくれるとは、正直思っていませんでした」