かつて歌手といえば、全国のレコード店だけでなくスナックやスーパーマーケットなどをキャンペーンでまわるのが通例だった。まだそんな時代だった1982年のヒット曲『氷雨』を歌った日野美歌が、名曲との出会い、スナック回りの思い出を振り返った。
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19歳の時にデビューし、キャンペーンでスナックを1日数十軒、何か月も回っていました。酔っ払ったお客さんから「誰だコイツ!」と汚い言葉を浴びせられるし、遅れると「遅ぇんだよ!」と怒鳴られて、目の前で私のポスターを破るオーナーもいました。でも、レコードを手売りすると「頑張ってね」と買ってくださる温かい方もいて、1枚の重みを実感できました。
2枚目を考えている頃、マネージャーが行きつけの四谷のピアノバーで『氷雨』を知った。私も既に発売されていた佳山明生さんのレコードを聴き、純粋に良い歌だなと感動しました。当時、競作自体がほとんどなく反対意見もありましたが、社長がゴーサインを出してくれました。
発売直後、大阪のスーパーマーケットで歌ったら、主婦の方がすごい勢いで駆け寄ってきて、「絶対に売れるから!」と鼻息荒く手を握ってくれました。周りの反応がすごく良かったんです。