ドラマや映画にもなった漫画『新宿スワン』は、2000年代の歌舞伎町を主な舞台としてスカウトマンの主人公と彼を取り巻く様々な人や出来事を描いた作品だ。6月最初の週末、その新宿スワンで描かれたような、いかにも裏社会にいる男たちが路上で暴れる場面が新宿区歌舞伎町で何度も出現した。「手打ち」が行われ、事態は収束したとも聞こえてくるが、なぜSNSで拡散された目撃情報や動画のような、路上での揉め事が頻発したのか。ライターの森鷹久氏がレポートする。
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「新宿でスカウト狩りが行われているらしい」
筆者の元に、新宿・歌舞伎町でバーを経営する知人から連絡があったのは6月6日の夜だった。「スカウト」と言っても、芸能タレントや雑誌モデルとして見込みがある人を勧誘するスカウトではない。歌舞伎町でスカウトといえば、水商売や風俗産業で働く女性を、街中で声かけをして探す人々のことを指す。こうした路上でのスカウトは、現在では全てが「違法」、さらにスカウトの背後には暴力団など反社会勢力の存在もちらつく。それだから、といえば偏見なのかもしれないが、スカウトにまつわるトラブルは別段珍しいことではない。また、新宿の「夜の街」といえば新型コロナウイルスの「第二波」発生の恐れを、東京都から名指しされているエリア。緊急事態宣言中も閑散としていたはずで、そんな時期に「スカウト」が街中に立っていることも、筆者は知らなかった。この知人が続ける。
「自粛期間中、実はホストも風俗も、こっそり闇営業していた。客は全然入ってなかったが、同じように仕事がなくなり困っていたスカウトの連中も、やはりこっそりスカウトを行なっていた」(新宿のバー経営者)
スカウトの収入は、道行く女性を飲食店や風俗店に紹介し、女性の稼いだ金額に応じて、店からキャッチに支払われる完全出来高制の報酬だ。かつては、女性を紹介するだけで店から高額な紹介料が支払われる「買取り」という制度もあったが、不景気の煽りからか、出来高制の仕組みのみが残った。スカウトは、スカウトし続けなければ「死ぬ」のだ。
「スカウト同士の揉め事はよくある話ですが、コロナの影響で新宿・歌舞伎町から人が消え、当然スカウトの対象となる若い女性もほとんどいなくなりました。飯のタネが減ったスカウトたちは道行く女性にしつこくつきまとったり、別グループの縄張りを荒らすなどして、かなりやりたい放題になっていたんです。そんな中、とあるスカウト会社が別の会社からスカウトを引き抜くと言うタブーをやらかしもめ事に。バックについていた暴力団も出てきて、騒動は収束するかに思われたものの、スカウト会社関係者が全く言うことを聞かず、暴力団批判まで……。スカウト会社をまもるべくバックについていたはずの暴力団が、スカウト会社を潰しにかかった…というのが今回の顛末です」